映画『ジョーカー』感想 〜「共感」はできるが「理解」はできない〜

映画レビュー
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先日(※この記事は2019年10月に投稿したものです。)、話題になっている映画『ジョーカー』をパートナーと一緒に鑑賞してきました。

かの有名なアメコミのヒーロー・バットマンに対するヴィラン(悪役)、ジョーカーを主人公にした物語で、彼がいかにして「ジョーカー」になったのか?ということに焦点を当てたストーリー。

映画に誘ってきたのは彼の方なのですが、彼はそこそこアメコミ好きな人間で『ダークナイト』は大好きな映画の一つだと公言している人なのに対して、
私自身はというと、本作の予習としてつい最近になって『ダークナイト』を鑑賞したものの、いい歳した大人がコスプレをしてドンパチやっているツッコミどころ満載の映画としか思えなかった…というぐらいアメコミ関連に興味ゼロの人間です。(ファンの方からはさぞ怒られるだろうな…汗)

そんな私でしたが、本作『ジョーカー』はアート的に見ても素晴らしく、またエンターテインメント作品としてもとても面白い、見応えのある映画でした。

もっとはっきり言ってしまうと、2回目も見たい、と思わされるぐらい大好きな映画でした。笑

ストーリー的にも他のシリーズとの繋がりは恐らくないと思われる(若干、それっぽい匂わせ描写はありましたが、ファンサービス的な描写に留まっていたと思われます)ので、私のようにアメコミに興味がなく今までにバットマンシリーズを見たことが一切ない、という方でも十分楽しめる作品だと思います。

そんな本作について、色々と感じたこと、考えさせられたことについて書き綴っていきたいと思います。


ネタバレが多く含まれておりますので、まだ鑑賞していないという方はご注意ください。

作品紹介

孤独で心の優しいアーサー(ホアキン・フェニックス)は、母の「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という言葉を心に刻みコメディアンを目指す。ピエロのメイクをして大道芸を披露しながら母を助ける彼は、同じアパートの住人ソフィーにひそかに思いを寄せていた。そして、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、底辺からの脱出を試みる。

(引用元…https://www.cinematoday.jp/movie/T0024167

社会の”底辺”でつましく生活する毎日

主人公のアーサーは、笑ってはいけないときに笑ってしまうという精神疾患を抱えながらも、コメディアンになりたいという夢を持ちながら、同居している母親の介護をしつつ大道芸の派遣のアルバイトでなんとか生計を立てて暮らしていました。

ところが、主人公自身は至って真面目にコツコツと働いているつもりなのですが、そんな彼にはさまざまな不運が降りかかります。

突然笑い出してしまうという疾患故にどこへ行っても奇異の目で見られ、

派遣先での路上バイト中にストリートチルドレンに絡まれ暴行を受け、

そのせいで壊してしまった看板の弁償を迫られ、

市の経費削減の煽りを受けて福祉の医療カウンセリングも打ち切られ…

その不運の連続たるや、

これは前評判で「鬱になる危険性がある」とかなんとか言われていたのも分かるなと思うぐらいのもので、とにかく悲惨の二文字しか出てこなかったですね…。

そして、なお悲しいと思うのは、これがこの『ジョーカー』という作品の中のアーサーという主人公だけの問題というわけではなく、現代社会における様々な社会問題、私達にとっても他人事などではなくとても身近な問題であるということです。

実際に私も、冒頭の十分足らずでこれはあまり主人公に感情移入しすぎるとヤバそうなのでなるべく客観的に俯瞰的に観ていくようにしよう…と思ったぐらいですから。

とはいえ、観ていくうちにさほど主人公に深入りしすぎず、意識せずとも自然と俯瞰的な視点で見られるようになっていきましたが。(理由に関しては後述します)

きっかけは同僚のささいな”ジョーク”から

そんな主人公でしたが、不良達から襲撃を受けた後、職場の同僚から「いざというときに身を守れるように」と拳銃を渡されます。

その同僚自身は特に主人公を気遣った様子もなくむしろ見下してさえいるように思われる人物で、拳銃を渡したのは軽い冗談のつもりだったのでしょうが、コレが後々主人公の運命を大きく変えていくことになるんですね。

まずは、派遣先での仕事中にうっかり拳銃を落としてしまったことがきっかけで仕事を解雇されてしまいます。

そして、失意の中、帰宅する途中の電車の中で、持病の発作が起こってしまったことから、三人の身なりのよい会社員風の男たちに絡まれ、またもや暴行を受けた主人公は今までの溜まりに溜まったストレスを爆発させ、引き金を引いてしまうのでした…。

このいかにも日常的な拳銃の扱いというのは、ちょっと日本では考えられないことですね。

護身用に持ち歩くのはまだいいとしても、仕事中にまで持ち込むなよ…と突っ込みたいところですが、以前痛い目に遭わされたことがトラウマになっていて、本当にお守り代わりに持ち歩いていたのかもしれません。汗

いずれにしても、職を失った挙句の果てに越えてはならない一線をも越えてしまった主人公。

しかし、殺害された三人はいわゆる富裕層のエリート会社員だったということが後日ニュースで報じられ、日頃から貧困にあえぐ貧困層の人々にとっては主人公のやったことは(本人の意思とは全く関係なく)まるで英雄のように扱われるようになっていきます。

ここから、彼の人生は大きく変わり始めていくのでした…。

終始周りに「踊らされ続ける」主人公

主人公は会社員三名からの暴行にただ「やり返した」だけであり、富裕層への犯行声明的なものは一切なかったんですよね。

また、このとき、ピエロの恰好をしていたことから、ピエロの姿をした犯人、という風に大々的に報じられていましたが、それもまた職場からの帰りで着替える暇がなかった(というか、解雇を言い渡されたショックで着替えるのを忘れていたのかも)というだけのことであって何のメッセージ性もありません。

そもそも、拳銃を所持していたのも、同僚からのささいなジョークで護身用にと渡されたというのがきっかけです。

本人の意思とは関係なしに、ある流れに巻き込まれていき、やがて社会を大きく揺るがす存在になっていってしまう。

まさしく『ピエロ』なんですよね。周りから踊らされているようにしか見えないんです。

本人にとっては願ってもないこと、不幸の連続、かもしれませんが、果たして第三者から見た彼の人生はどのように映っているのでしょうか。

終盤、すっかり悪の道に振り切れてしまった主人公は「自分の人生はずっと悲劇だと思っていたけど本当は喜劇だったんだ」といった発言をしますが、色々と考えさせられた一言でした。

妄想と現実、主観と客観

上でもチラリと述べた主人公の精神疾患ですが、彼には「突発的に笑い出してしまう」症状ともう一つ、妄想という精神病理が見られました。

この妄想というものが、この映画を理解する上で非常に厄介なものにしてしまっているように思われます。

要するに、どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが妄想なのかが非常に分かりづらいんです。

作中ではっきりと主人公の妄想だったと示された描写は、

・映画の序盤、主人公が憧れのコメディアンに招かれ舞台の上に上げてもらうというシーン

・主人公ととあるきっかけで少しずつ親交を持ち始め、交際するに至ったとまで思われた女性の描写(実際にはその女性は主人公と一回喋ったことがあったきりで何の付き合いもない)

の二つです。

しかし、主人公の妄想は果たしてこの二つだけだったのでしょうか。

映画はあくまで主人公の視点から語られます。

ということは、妄想癖のある主人公の主観のみで物語が展開していっている、ということです。

客観的に見てみるとこの主人公は「信頼できない語り手」と言えるでしょう。

映画のラスト、『ジョーカー』による意味深な台詞といい、どこまでが妄想でどこからが現実なのか?ということについては色々な考察がありますね。

とはいえ、明確な答えというものは用意されておらず、人それぞれの解釈そのものが答えなのだろうな、とも思います。

「理解」はできないのに「共感」はしてしまう(せざるをえない)

私は主人公の境遇を悲しいと思いつつも、主人公にさほど感情移入しすぎることなくあくまで客観的な視点でストーリーを追っていった、と上で述べましたが、
この作品で私が最も違和感を覚えたのは、主人公の人物像がはっきりと分からないということでした。

もっと言うと、主人公の人物像が掴めないために「一定の共感はできても感情移入はできない」んです。

映画の中で主人公の「行動」や「置かれている状況」はしっかり追っていっている。

その場その場における主人公の快・不快などの感情もリアクションとして十分伝わってくる。

なので、要所要所で一定の「共感」はできるんです。(客観的に見たところ、主人公は非常に受動的で(小さな子供以外の)誰に対しても立場の弱い人物のように描写されてはいます。
が、テレビで憧れのコメディアンが自分をネタにして笑いを取っているのを見て怒りを覚える程度には、彼には彼なりのプライドがある…とも思われます。あくまで私から見た推察ではありますが。)

けど、「主人公が普段から何を考えているのかという内面描写」に関しては見えているようで全く見えてこなかった、理解できなかったんですよね。

一つ具体例を挙げるとすれば、
最初の殺人の後、普通であれば何てことをしてしまったんだと自分のやったことを後悔したり警察の捜査に怯えたりするところなのに(最初から悪意をもって意図的に殺害したわけでなく、突発的な殺人でしたしね)、この主人公は何の葛藤も怯えもなくごくごく普通の日常を送っていっている。

翌日テレビで自分の起こした事件が報じられているのを見ても、ほとんど顔色を変えないしまるで他人事のようにぼんやりとニュースを眺めている。

この人一体何考えてるの?と初見でもかなり違和感を覚えたシーンでしたね。

あれだけ苦しい状況にあり相当な生きづらさを抱えているはずの主人公なのに、主人公が何を考えているのかが全く分からない。

主人公と自分との間に、まるで透明な薄い壁一枚で隔たれているような感じで本当の内面までは見えてこなかったんですよ。

この見えているようで見えてこないチグハグな感じにものすごく違和感があって、それで「共感はできるけど感情移入はできない」と感じてしまったのかもしれませんね。

人間性を理解できない以上、その人物に感情移入することもまたできませんから。

しかし、逆に考えるとここまで理解しがたい人物であっても、作中のあらゆる描写から一定の共感を覚えてしまうというのはかえって恐ろしいなとも思います。

ラストの場面で、カウンセラーが何を笑っているの?とジョーカーに問いかける台詞がありますが、ここまで理解できない人物、本当にカウンセラー泣かせだと思いますよ汗

ちなみに、余談になりますが…カウンセラーの一番の役目とは、「人の話を聞くこと」です。
話を引き出すことによって、その人に自分自身の気持ちを確認させるというお仕事なので、この映画の作中のように毎度決まりきった質問をするだけのカウンセリングで、患者さん自身から「全然話を聞いてくれない」と言われてしまうのはカウンセラーとしてちょっとどうなのかなと思ってしまいました汗)

というか、むしろ観客の『ジョーカー』に対する気持ちをこのカウンセラーが代弁してくれているような気さえしてしまいますね。

貴方は何故笑っているの?

貴方は一体何を考えて生きているの?

と。

私たち観客は無意識の中で彼にそう尋ねるのですが、その後の顛末(は、あくまで想像の域を出ませんが、恐らくこのカウンセラーもジョーカーによって手を下されたのかと思われます…)を考えると寒気がしてきますね…。

かの哲学者ニーチェの言葉に、

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。

との言葉がありますが、本当にその通りだと思います。

まとめ

月並みな感想になってしまいますが、本当に見応えのある映画でした。

冗談などではなく(笑)、私が今までに観た映画の中でもTOP5ぐらいに入るかもしれません。

ラストシーンの考察に関して、実は今までの話は全てが主人公の妄想だったという説があるようですが、そうした「夢オチ」というのはごくごく一般の映画では「金返せ」案件だと思うんですが(苦笑)、この映画に関しては別ですね。

むしろ二時間たっぷり堪能させてもらった、悔しいけど面白かったよ、という心地よい敗北感すら感じさせられるほどです。

ただ、この「最後のシーン以外全てが妄想説」もあくまで一つの考察ですので真相というのは分かりませんが。

また、昨今はSNSの発展もあってか、何かとネット上でファン同士のまるでカウンセリングのごとき「心理分析・考察」が飛び交っているのですが、なんだかそうした現象さえも本作ではジョーカーの風刺の対象になっているような気さえしてしまいますね。

まさしく「全ては人の主観で決められる」

本当に、色々と考えが尽きない作品です。

そして、ここまで謎が多く、あらゆる物の見方ができる映画だからこそ、ハマってしまう人はどこまでもハマってしまい、何度も繰り返し映画館へ足を運ぶといった社会現象にまでなっているのかな…と思いますね。

ちなみに、私自身は「全てが妄想ではなかった」派ですね。
なぜなら、全てが妄想でアーサーという人物すら存在しなかったとなるとその方が観客にとってはある意味幸せだと思えてしまうからです。
どうせなら、何かしら観た人にとって「爪痕を残す」作品であってほしいじゃないですか。笑

エンターテインメント作品としても、アート的な作品としても(言うまでもありませんが音楽や美術などもこの映画の雰囲気にピッタリで素晴らしかったですね)、非常に優れた映画でした。

実はもう2回目鑑賞に行くことが決定しているのですが(笑)、また新たな発見や感想などありましたら、この記事の追記という形でぜひ書かせていただきたいと思います。

(※)2回目鑑賞時の感想記事も書かせていただきました。


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