フリーゲーム『フサの大正女中ぐらし』感想~大正時代の女中という立場を主軸とした女性向けADV~

フリーゲームと読書感想
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今回は前回の『鼓草』から引き続き、同じ作者様(式部様)による乙女ゲーム作品『フサの大正女中ぐらし』の感想を書かせていただきたいと思います。
ダウンロードサイトはこちらです→https://www.freem.ne.jp/win/game/27331
(※注意点として、未成年者への性加害描写が出てきますので苦手な方はご注意くださいとのことです。

今作は『鼓草』よりもさらに時代を遡って大正時代という設定ですが、制作順は鼓草→フサの順番のようです。
二つの作品は同じ世界観の物語ということらしく、『フサ』をプレイしていくと前作をプレイ済の方であればここでこの話題が出てくるのか…!といった発見もあるかと思われますので、個人的には制作順にプレイすることをおススメしたいです。

『鼓草』をプレイしていて本当に素晴らしいな、と思ったのが時代背景が本当にリアルに描かれていた、という点でした。
今作の『フサの大正女中ぐらし』も、当時の大正時代の情勢や風習、何より女中奉公という当時の女性の仕事がきちんと描いており、(ゲームのボリューム自体は鼓草よりも少なめではあったものの)プレイヤーが作品にどんどん入り込んでいける、といった点が良かったな、と思います。
『鼓草』の感想の方でも述べましたが、時代背景に厚みがあるということは優れた作品だということです。
そして、その時代をしっかり描くということは作品の根幹に関わることであり、作品の根幹がしっかりしているということは登場人物一人一人が「ゲーム内のキャラクター」ではなく「その時代に確かに生きていた人」としてしっかりと描写されている、ということだと思います。
そういった点からしてこの「フサの大正女中ぐらし」も、乙女ゲームというくくりではあるけれどもできることならより多くの人にプレイしていただきたい、非常に質の高い作品でした。

大正六年・秋。十五歳のあたしは、東京で女中奉公をしていた。
十歳の坊っちゃんに振り回されたり、奥様に洋食の作り方を教わったり、毎日がじたばたどたばた。
あの頃のありふれた、不幸せと幸せ。

https://www.freem.ne.jp/win/game/27331

作品の舞台は大正時代、第二次世界大戦の影響による好景気の時節。
主人公のフサちゃんは東京の会社員の家庭、千光寺家にて女中として働いています。
年齢は15歳、現代であればまだ中学生という年齢にして田舎の家族のために奉公に出て単身頑張っている、という毎日です。

そんな彼女に何かと気安く接してくるのが千光寺家の一人息子、檀坊ちゃん
年齢は10歳とまだ幼い少年ですが、どうやらフサちゃんに対しては単なる女中以上の感情を抱いているようです。

千光寺家での毎日は忙しくもたまの息抜きの時間もきちんと取れており、特に食事の献立に関しては田舎の実家ではなかなかお目にかかれなかった洋食を作れる(女中という身分上、他の皆と同じ食事をとれるというわけではないのですが…)など、フサちゃんにとってはそれなりに充実した毎日のようです。

そんなある日、唐突に(とはいっても前兆のようなものはにおわされていたのですが…)彼女に訪れたこの上ない理不尽。

果たしてフサちゃんは、プレイヤーは女中として、一人の女性としてどういった選択をとるのでしょうか。
プレイヤーの選択によってエンディングがグッドエンドとバッドエンドに分岐します。

良かったと感じたところ

以下、ゲームをプレイしていて良いなぁと感じた点について書かせていただきたいと思います。

大正時代の「女中」という立場の主人公を通して、当時の一般庶民の生活が細かく描かれている

一般的に「大正時代モノ」の作品というとどのようなものを連想するでしょうか。
帝国、軍人、文明開化による和洋入り混じった華やかな文化…といったものをイメージされる方が多いのではないでしょうか。
作品名を具体的に挙げると、「サクラ大戦」とか。(ブログ主は世代ではありませんが、ゲキテイは名曲ですよね)
最近ですと「鬼滅の刃」の流行もありましたよね。
そんないわゆる煌びやかなイメージ、あるいはファンタジー的な作品が多いイメージからすると本作『フサの大正女中ぐらし』は本当に一般庶民の少女の目線から描かれた作品です。
一言でいえば地味
しかし、当時この国で生活をしていた人の大半はフサちゃんのような庶民だったはず。
私たちがぱっと思い浮かべる華やかな「大正時代」の裏には彼ら彼女ら一般庶民の生活があった、言い方を変えれば庶民たちのつましい生活があったからこそこの時代は成り立っていたのだな、とこの作品を通して改めて思わされました。

そして、前作の鼓草でも感じたことですが、当時の女性の立場の低さや現代以上の人権意識というものの希薄さ(というかそもそも基本的人権という考えが入ってくるよりも前の時代だったので致し方なかったのでしょうが…)には特に女性としてプレイしていて心を痛めることが多かったです。
もちろん、人権意識に関しては現代でもまだまだ改善されていない点は多々あります。
ただ、それでも女性にも選挙権が与えられ、男性と同じように働けるようになった今の時代があるのは、こうした時代を先人たちが苦しみながらも戦い抜いてこられたという過去があったからこそなのだな…と思わされましたね。
作中、ストーリーを進めるごとに出てくる女中さん読本もなかなか勉強になりました。

作品の世界観に合ったイラストとBGM

今作のキャラクターデザインをされているのは『鼓草』と同じ方のようで、やはりゲームの雰囲気に合った主張しすぎない控え目なキャラデザだなと好感を抱きました。
特にフサちゃんの着物が黄色というのがキャラに合っていて良いですね。服飾関係には疎いのですが、彼女にはピンクでも緑でもなく黄色というぱっと明るい色が似合っていると思います。

また、成長後の檀さんの立ち絵は本当に気合を入れてデザインされたんだな、というのが一目で分かるぐらいの好青年らしさ満載で、ダウンロードサイトで攻略対象は後に成長しますと事前にネタバレがあったので成長を楽しみしていたのですがこれは予想以上だな、と思いました(笑)
(ところで、攻略対象が成長する、というのは恐らくいわゆる地雷を踏まないようにという対策なのでしょうがネタバレしてほしくなかった、という人とネタバレを見て楽しみになった、という人に分かれそうですね。私は後者ですが、一切のネタバレなしにプレイしたいという主義の方ももちろんいらっしゃるでしょうしこの手の問題は難しいな…と思いますね。)
少年時代の檀坊ちゃんが友達と喧嘩をしたり猫に顔を引っかかれたりで顔中傷だらけだったり、時には鼻血まで垂らしていたりするのもまさしく絵に描いたような腕白坊主という感じが出ていて良かったです。というか、乙女ゲームで攻略対象キャラが鼻血を出すってなかなか見られないシチュエーションですよね(笑)

スチルは一枚しかないのですが(お祭りに出かける場面)、幸せいっぱいのフサちゃんに、そんなフサちゃんを少し頬を赤らめながらも満足そうに見つめる檀さんの二人がとてもいとおしくて、見ているこちらも幸せを分けてもらえたような気分になる一枚絵でした。

BGMに関しては『鼓草』が戦中戦後という過酷な時代ゆえ繊細で少し切ないピアノ調の曲が中心だったのに対して、今作では大正情緒を感じさせられるようなものが多かったように思います。
特にゲーム画面を起動してタイトルが出てくるときに流れてくる曲は最初は静かな入りから始まりながらも一気に華やかな曲調になり、一気に物語に引き込まれる素敵な曲でしたね。
(ただ、この曲、フリーBGMという関係上仕方ないことなのですが全然関係のない麻雀のゲームのBGMにも使われておりまして…汗 しかもそっちはそっちで妙にマッチしていたのでおもわず苦笑いしてしまいました。苦笑)

終盤に非常に精神的に辛い展開が待ち受けているも、読後感は非常に爽やか

ダウンロードサイトの注意書きに書いてあるとおり、本作品には未成年者に対する性加害描写があります。
そのためプレイヤーの大半はおそらくゲームを進めていてフサちゃんの身に何が起こるのか察しながら、いつ「そのとき」が訪れるのだろうかとハラハラしながらプレイすることになるかと思われます…。
そしてその場面は直接的な描写こそないものの、立場の弱さ、そして身体的な力でも到底かなわないことによる恐怖感と嫌悪感をしっかりと感じさせられるものでした。
(ちなみに、もしも性的なハラスメントを受けたときの実際の相談先のURLがゲームのRead meに書かれています。男女の性別は問わず、相手が学校or部活の先生だろうと先輩だろうと上司だろうとはたまたSNSで知り合った人だろうと何かあれば必ずしかるべき機関に相談していただきたいです。声を上げることはとても勇気のいることでしょうが、どういった経緯があろうと被害を受けた人に全く非はありません自分の心と身体とこれからの人生を守るためにも、しっかり相談をしてほしいです。)
今の時代も女性や子供は有事の際に被害に遭いやすい立場ですが、今以上にそうした人々の立場が弱かった時代。
誰にも相談することもできず、恐怖にただ耐えることしかできず。
主人に対しては毅然とした態度で接し、万が一手を出されてしまったら自らの落ち度を反省し事を荒立てないように振舞えというあまりにも残酷すぎるこの時代の世間一般の「女中の心得」。
かといって逃げ出せばまた違う場所で違う意味で酷い目に遭う未来しか待ち受けていない。
この辺りの展開は本当にはっきりと「胸糞」という言葉しか出てきませんでしたね…。
(ちなみに加害者の名前どころか立ち絵すら最後まで出てこなかったのは、被害者にとって記憶から消し去りたいぐらいおぞましい存在だったというのもあるでしょうが、それだけでなく作者様ご自身もこの人物にキャラクター性、というか人格を持たせたくなかったのかな、と少し思いました。)

ただ、それでも最後までゲームをプレイすることができたのは、前作『鼓草』でも終盤に相当しんどい展開が待ち受けていながらもしっかりとキャラクター一人一人を大事に扱い、どのエンディングでもそれぞれが未来に向かって歩いていっているという非常に前向きな終わり方で安心できたからでした。
『鼓草』のあの展開とそれぞれの結末があったからこそ、この作者様なら大丈夫、という安心感を持ってプレイできたように思います。
色々な作品(ゲームにしても小説やアニメ、漫画等にしても)に触れていて思うのですが、いわゆる鬱展開があってもそこからただ読み手を不快な気分にさせて終わりというのではなく、きちんと前向きな形で終着点に向かって展開させていくということはとても難しいことだと思うんですよね。
その点、この作者様のストーリー構成は本当に上手いなぁ、と改めて感じました。

各キャラクターについての感想 ※ネタバレあり

それではここからは主要キャラクター三人についての感想を書かせていただきたいと思います。
キャラ設定やストーリーのネタバレが含まれますので未プレイの方はご注意ください。











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フサちゃん

この作品の主人公。年齢は15歳とのことですが、この時代は数え年(生まれたその年から1歳としてカウントする)で年齢をカウントしていたので現代でいうと14歳になるのでしょうか。それとも現代の数え方で15歳ということなのでしょうか。
いずれにしても、まだ14~5歳という少女の身でありながら東京の千光寺家にて女中として働いています。
田舎育ちのため礼儀作法には疎いようですが、料理には自信があるようで、作中でもライスカレーを楽しそうに作っている姿が印象的でした。
(前作の鼓草でも食事の献立が本当に美味しそうだったのですが、今作でも特に冒頭のライスカレーを作っているシーンでは本当にカレーのにおいがしてきそうなぐらい美味しそうな描写でしたね。)
檀坊ちゃんとその母、千代子さんの微妙な距離感を気にかけながらも、女中である自分にできることは皆に美味しいご飯を作ることだけだと自分の立場をしっかり自覚し、懸命に働いている健気な少女です。

フサちゃんは前作『鼓草』の綿子さんとはまた違ったタイプの、明るく屈託のない性格の女の子です。
その性格故、千光寺家の長男坊である檀坊ちゃんから懐かれており、女中と奉公先の子供、といった関係以上に姉と弟のような近い関係を築いています。(檀坊ちゃんの方は姉以上の感情を抱いているわけですが…。まぁ、この手の関係性はこういった乙女ゲームのお約束ですね(笑))

フサちゃんの長所はとにかく明るく前向きなところですね。
作中、おしゃれをして出歩いている女学生を見ていいなぁ…と少し彼女たちを羨む描写があるのですが、それでも彼女は自分の家が裕福でないということに関してそこまで深く悩んだりコンプレックスを抱いているわけではありません。
いいなぁ、と羨ましく思うのはその瞬間だけで、次の場面になると場面だけでなくフサちゃん自身もしっかりと気持ちを切り替えられているというか。
女中という仕事自体も、家事だけでなく来客対応やその他こまごまとした事務的なものまで、色々と大変なのですが決して嫌だ、とだだをこねることはありません。
ないものねだりをせず、かといって自分の意思がなく周囲に流されるがままということもなく、自分の現状を受け入れ、ありのままに生きようとするところがフサちゃんの持つ強さだな、と思います。

また、彼女は女中としては雇い主である千代子さんから見ればまだまだ、と感じるところもあるかもしれませんが、作中一貫して自分はあくまで「女中」である、という立場を崩しません。
檀坊ちゃんに積極的に話しかけられても、自分は女中なので皆さんと同じ食事はとれません、といったことをきちんと説明しています。
そういった仕事に対する誠実さもフサちゃんの人として素敵だな、と感じたところでした。
(なので、そんな彼女の「女中」という立場を利用してああいった行為に及ぼうとする、という展開は彼女が仕事に対して真摯に向き合っている姿をずっと見てきたからこそ許せなかったですね…。)

グッドエンディングでは立派な青年に成長した檀さんと無事に再会を果たし、求婚されるのですがこのときのドタバタぶりがこれまでの鬱屈な展開からの急展開ということもあり本当に見ていて胸をすくものでした。笑
それにしても、クリア後のおまけを見る限り、本当に二人が別れてからの8年間は紆余曲折あり、二度と再会できないということも十分ありえるほど時間も距離も離されてしまっていたんですね。
それでも、どんなに離れていても子供の頃の想い人に逢いたい、逢って自分の想いを伝えたいという檀さんの強い意志が二人を巡り会わせたんだろうな、と思います。
結婚後は檀さんに美味しいライスカレーを作ってあげて、二人でコロッケでももんじゃ焼きでも栗饅頭でも美味しいものをたくさん食べて幸せに暮らしていってもらいたいです。

檀坊ちゃん

この作品における攻略対象キャラクター。
気が強く腕白坊主といった言葉を体現したような、千光寺家の長男坊。年齢は10歳で、尋常小学校に通っているようです。
お友達の義雄くんと信介くんとは喧嘩をしたり一緒に遊んだりと、仲が悪いんだか良いんだかといったような関係。(男の子あるあるですね)
女中のフサちゃんにほのかな思慕を寄せつつも、歳の差(と彼女の世俗に少々疎い性格故もあり)のせいで全く気付いてもらっていません。
一方で、母親である千代子さんとは微妙な距離感があり、本心ではお母さんにもう少し甘えたいという思いがありながらもなかなかうまく自分の気持ちを出せていないようです。

そんな檀坊ちゃんですが、実は彼には下に弟と妹がいた、ということが作中で明かされます。
しかしきょうだいたちは二人とも幼くして流行り病で亡くなってしまったとのこと。
それ以来、母である千代子さんと檀さんの間には溝ができてしまった、とのことでした。
いつも元気いっぱいな檀坊ちゃんが千代子さんの話題になると少し表情を曇らせるのがプレイしていて気になっていたんですが、話を聞いたときはそういうことだったのか…と思いましたね。
幼くして我が子を喪った千代子さんも、きょうだいたちを早くに亡くした檀さんもどちらも気の毒です。

そして、ゲーム概要で攻略対象の少年は後に成長しますと前もって書かれていたので期待に胸を躍らせていたのですが、8年後の檀さんのあまりの好青年ぶりには胸がズキュンと貫かれてしまいました。笑
残念ながらボイスつきの作品ではないのですが、声変わりもしているんだよなー、どんな声なのか聞いてみたいなぁなどと想像したり。
作者様の書かれた副読本によると、少年時代の坊ちゃんが和装だったのに対して、青年期は大きく変化を出すために洋装にしたとのことで、なるほどなぁと思いました。
エンディング後のおまけではフサちゃんとの再会をずっと夢見る檀坊ちゃんの一途さがとにかくいとおしくて、また成長するにつれて少しずつ文体が変わっていく(特に母親である千代子さんへの呼称の変化など)のも見ていて微笑ましかったですね。

ところで、(余計なお世話かもしれませんが)これからフサちゃんと結婚して家庭を築いていくとなったとき、檀さんの中で父親のことを思い出してしまって苦しんだりすることはないだろうかと少し気になりました。
もしそういったことで檀さんが思い悩むことがあれば、父親と貴方は血はつながっていても全く別の人間なのだから悩まないでほしい、貴方はもう両親のもとを離れて一人の男性として自分の人生を歩んでいるのだから、と私の口から言ってあげたいな、と思いますね…。
ときどき、親から虐待を受けていた人が成長して大人になった際、自分も子供を虐待してしまうのが怖いから子供を持たないと宣言する人の話を聞きますが、自分の親のようなことを自分もしてしまうのでは、と不安に駆られること自体が大人になってからも親からの呪縛に囚われてしまっているということなのではないでしょうか。
もちろん子供を持つ、持たないはその人が決めることではありますが、子供は親の所有物などではありません。
子供には子供の人生があります。たとえ実の親であっても、自分の人生は誰のものでもありません。
親がどうだったかといったことは関係なく、檀さん自身が自らの意志で切り開いた自分自身の人生を生きていってほしいなと思います。

千代子さん

フサちゃんの奉公先である千光寺家の奥様であり、檀坊ちゃんのお母様。
女中であるフサちゃんに対してでなく、実の息子の坊ちゃんに対しても冷淡な態度を取り、坊ちゃんとは第三者の目線から見てもぎこちない関係なのですがこれには実はある理由がありました。
冷淡な態度ではありますが決して冷酷な人間というわけではなく、田舎育ちのフサちゃんにきちんと女中としてのマニュアルを教えたり、体調を崩してしまった坊ちゃんをひそかに気遣う一面もあったりします。

千代子さんへの印象を一言で表すと嫁ぎ先ガチャに失敗した綿子さん(鼓草の主人公)のようなイメージがあります。
前作の主人公、綿子さんにとって何よりも幸いだったのは嫁ぎ先の絹本家が夫も義両親も義弟も含めて皆善い人たちばかり(更に言うと秋江さんという親友まで得られた)という、本当に良いご家庭に恵まれたということだったのですが、千代子さんに関しては本当に気の毒としか言いようがありませんでした…。
夫のおぞましい所業を知っても夫を問いただすこともできない、離縁することもできない。
ただただ自らの立場の弱さ故に「何もできなかった」というのがこの人の悲しいところだな…と思います。
再会後の檀さんから語られた話によると、もう夫には完全に見切りをつけられたようで少しは彼女も生きやすくなったのかな、と思いました。
立派に成長した長男の姿は何よりも千代子さんにとっての救いだったでしょうね。

ところで、下の子供たちを流行り病で亡くしたことについてですが、いつの時代であっても子供が何歳であっても親より先に子供が亡くなってしまうのは本当に悲しいこと…というのは大前提として、子供がまだ小学生とか中学生とかの幼い年齢で先立たれるのは本当に親にとっては辛いことだと思います。
一方で残された兄弟にとっても肉親を亡くした悲しみは勿論ありますが、それだけでなく「我が子を喪った親の悲しみ」まで背負い込んでしまうという問題もあります。

嘆き悲しむ親の姿を見て「自分が亡くなった兄弟の代わりにならなければ」と自分を追い込んでしまうこともあるかもしれません。
もっと極端なところまで行くと「自分の方が死ねば良かった」とさえも思うようになってしまうこともありえます。
こうした親と遺された子供との間の溝が深くなっていってしまわないためには、互いに向き合い、家族を亡くした悲しみを共有していくしかないのだろうと思います。時間は少々かかるかもしれませんが。
外部の人間が何かしら働きかけるとしたら、親御さんだけでなく遺された兄弟の心のケアもしっかり行っていくことが大事かと思われますね…。

まさかの前作『鼓草』との繋がりが示唆される展開も

本編終盤(グッドエンドルートの方の)にフサちゃんは千光寺家を離れ、別のおうちに奉公に行くことになるのですが、紆余曲折を経て最終的に彼女が行き着いたのはなんと『鼓草』の舞台にもなった岡山でした。
8年後に物語が飛んだとき、出てきた背景イラストがまさかの『鼓草』で見慣れたもので前作をプレイさせていただいた者としてはここに繋がるのかー…!と大変興奮したものです。

その後、やはり見慣れた景色にどこかで聞いたような名前のお家やどこかで聞いたような名前の男の子が出てきたりして(くれぐれも人が大事にしているものを勝手に燃やしたりはしないでもらいたいものです。これ大事。)ああ、この作品の世界は『鼓草』のあの世界に続いていくんだなぁ…としみじみと思わされました。
『フサ』の世界にも主要人物たちのルーツとなる親世代が存在していて、『鼓草』の世界においてもフサちゃんや檀さんたちはどこかで逞しく生きているのだろうと。
あくまでゲームという二次元の中の話ではあると分かっていても、こうして人と人とが繋がって、歴史というものは続いていくんだな、と思うとなんとも感慨深い気持ちにさせられましたね。

考えてみたらそもそも大正という時代だって今から100年ほど前と、私たちの三世代ほど前の人たちが生きていた時代なのだと考えるとさほど大昔というわけではありませんよね。
フサちゃんや檀さん、『鼓草』の綿子さんや尚太郎さん、芳次郎さん、秋江さんたちもひょっとしたら歴史の中でどこかで存在していたのかもしれないな、と。
そんな気分にさせられました。

ちなみに、この時代よりももっと昔の近世の時代には、女中には主に来客対応や雇い主の身の回りの世話などを任される「上女中」と、台所での炊事や清掃などざっくり言うと肉体労働を担当する「下女中」とで分かれていたようです。
明治時代以降の近代化の中でそうした区別が薄れていって、家事全般をこなす女性のことをひっくるめて「女中」とみなされるようになっていったそうですね。
ちなみにバッドエンドルートでフサちゃんは女中をやめて女工に行かされることになるのですが、女工の仕事は今の時代の観点からするとブラックなどという言葉が生易しいと思えるほどのとんでもなく劣悪な労働環境で、結核にかかったり身体を壊して亡くなる女性も多かったそうです…。
男女平等といった概念だけでなく、こうした労働環境に関してもこうした過去の歴史があって今があるのだな、ということは忘れてはいけませんね。




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まとめ

先にも述べましたが、『鼓草』をプレイしていてこの作者様の作品であればきっと高質な作品だろう、と絶対的な信頼感を置いてプレイさせていただいた本作、実に期待以上の作品でした。
個人的にですが、『鼓草』をプレイしていてやや気になった点として台詞のフォントがやや見づらいというものがあったのですが、本作はその点もきちんと改善されていて視覚的に見やすく感じられましたね。これは制作順にプレイしたからこそ感じられたことだと思います。

最近自分でもわかってきたことなのですが、個人的に乙女ゲームというものに対してはただ攻略対象との甘々な恋愛を見たい、とかそれこそ主人公に自分を投影してイケメンと恋愛したい、といった気持ちよりもしっかりとした世界観に根差した人間ドラマを求めている傾向にあるな、と思います。
その点からして、『鼓草』も『フサの大正女中ぐらし』も、筆者の好みにぴったり合う大変素敵な作品でした。

作者様の次回作も、『鼓草』や『フサ』と同じ世界線の物語になるのでしょうか。
またいつか新しい作品が発表されましたら、是非ともプレイさせていただきたいと思います。

この度は素敵な作品をありがとうございました。

※『鼓草』同様『フサの大正女中ぐらし』もキャラ設定や作品の裏話などが書かれた副読本が書かれています。
ゲームをプレイされてもしご興味のある方がおられましたら是非ともご購入いただければと思います。

フサの大正女中ぐらし 副読本【紙版】 - 日々雲隠れ - BOOTH
乙女フリーゲーム【フサの大正女中ぐらし】の設定などを収録した副読本です ゲームダウンロード: 〇登場人物設定・解説(5頁) 〇女中フサのとある一日(フサのタイムスケジュール、1頁) 〇フサと檀の昭和ぐらし(本編の後日談ダイジェスト、3頁) 〇作中スチル1枚、書き下ろしイラスト1枚(カラー収録) 〇私見にまみれたフサの大...

※前作『鼓草』の感想記事はこちらになります。

フリーゲーム『鼓草』 感想 〜戦中戦後の日本を舞台に人々の生き様を描くADV〜
戦中戦後の岡山を舞台にした女性向けフリーADV、『鼓草』の感想記事です。ストーリーの重大なネタバレを含みますので未プレイの方はご注意ください。あくまで自分の主観による感想ですので、こんな感想もあるんだな程度に思っていただけたら幸いです。



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