前回の記事では、 劇場版名探偵コナン『14番目の標的』について、主要キャラクターの描写やおおまかなストーリー展開を中心とした感想記事をかかせていただきました。
今回は、そんな『14番目の標的』における犯人についての感想記事を書いていきたいと思います。
小五郎のおっちゃんの周辺人物を次々と窮地に追い込み、更には終盤まであのコナンをも欺き続けたなかなかの強敵、一体誰だったのでしょうか。
最初からネタバレ全開ですので、くれぐれもお気を付け下さい。
犯人と動機について
今回の一連の事件、「十三」の目暮警部から始まり「十二」の英理さん、「十一」の阿笠博士…と、次々とコナンや小五郎のおっちゃんにとって身近な人達を襲っていった犯人は、なんとおっちゃんの古くからの友人、ソムリエの沢木公平さんでした。
劇場版名探偵コナン『14番目の標的』より
犯行動機は、自分を味覚障害に陥れた者達への復讐。
そもそものきっかけは、あるとき沢木さんが小山内奈々さんの運転する車と接触事故を起こしかけたことでした。
その事故からしばらくしてから、突然味が分からなくなったという沢木さん。
病院へ行って診断を受けたところ、頭部外傷やストレスからくる味覚障害だろうとの結果を受けたのでした。
それからしばらくは、残された視覚と嗅覚のみをフル稼働させながら必死にソムリエの仕事を続けていた沢木さん。(実際に映画の途中、奈々さんが持ってきたワインの銘柄をなんと視覚と嗅覚のみで当てています。味覚が遮断された分、他の五感が鋭くなったということもありえるのかもしれませんが、本人の努力の賜物なのでしょう)
しかし、それは完璧なソムリエでありたい、という沢木さんにとっては惨めなものだったのでしょう。
ついに沢木さんは、ソムリエの仕事を辞めて実家に戻ることにしたのです。
その前に、事故の原因を作った奈々さんを始め、自分を味覚障害に陥れた者達への復讐をすることにして…。
ちなみに、ストレスの原因となった人達に関しては、
旭さん→海外から希少ワインを買いあさっていた、の割にワインの管理はずさんなものだった
仁科さん→本当は味音痴なのにグルメを気取ってワインに関する間違った知識をひけらかした
辻さん→ソムリエの尊厳を汚された
…などなど完全に沢木さんの一方的な思い込みがほとんどです。
もしも味覚障害の件がなければ、殺害されるほどのことはなかったのではないでしょうか…。
ただ、唯一、辻さんの件に関しては立派なハラスメントですし、少々同情の余地はあるかな、と思いますね。
とはいえ、何の恨みもない目暮警部や英理さん、阿笠博士らまで巻き込んだことに関してはもはや正気を失っていたのではないかとしか言いようがないですね。特に英理さんに関しては、夫婦の思い出の品であるチョコレートに毒を盛るという非情かつ卑劣な手段で危害を加えていますし。
村上丈を犯人に仕立て上げながら犯行を積み重ねていく
劇場版名探偵コナン『14番目の標的』より
そんな沢木さんですが、毛利探偵事務所の前で仮出所してきたばかりの村上丈と出会い、自宅に誘います。
服役中にすっかり改心した村上は、今はただ小五郎のおっちゃんに謝りたいという一心で探偵事務所に来ていたのでした。
(ここでおっちゃんが麻雀に出かけず、ちゃんと事務所にいて村上を受け入れていたらこんな事件は起こらなかったのでしょうか…)
そのとき、沢木さんは自身の名前と復讐したい人達の名前に数字が入っていることに気が付き、トランプの数字に見立てて自分の犯行を村上の犯行としてカモフラージュすることを思いたのです。
そして、計画に支障をきたさないために沢木さんは村上を酔わせて殺害したのでした。
瞳の中の暗殺者といい、偶然出会った相手と酒を飲み交わし酔った勢いで殺すというパターンがなんか共通していますね…。
沢木さんによればきちんと改心したと思われる村上。おっちゃんと再会できていればさぞ良い酒を飲み交わせただろうに、気の毒でなりませんね。
そして、今は改心しているといえども、殺人の前科のある人物を相手に堂々と殺害計画を練り、実行に移す沢木さんの根性もなかなかのものです。
それにしても、沢木さんは毛利探偵事務所に何の用事で来ていたのでしょうか。
映画では一切語られることなく終わってしまったので、これに関しては解けない謎ですね。
もしかしたら、復讐を少しでもためらった沢木さんがおっちゃんに自身の障害のことなどを相談しようと思って事務所を訪れていたのではないか…と思うのはさすがに考えが甘いでしょうかね。
でも、個人的な願望としては、そうだったらいいのにな、と考えております。
(だとしたらやっぱりおっちゃんが麻雀に行っていなければやっぱり事件は起こらなかったのではという気も…汗 いや、もういい加減この件に関しては考えるのをやめておきましょうか。)
ソムリエという仕事への誇り
味覚障害になってからもなおソムリエを続けていた沢木さん。
しかし、たとえ視覚と嗅覚を駆使してなんとかソムリエを続けていられたとしても、ソムリエの仕事に誇りを持つ沢木さんにとっては我慢のならないことだったのでしょう。
そもそも、ソムリエの仕事に就いたということは、早い話がワインが大好きだから、ということですよね。
そんな大好きなワインの味が分からなくなる、これはどれほどショックなことだったでしょうか…。
仁科さんや旭さんの、「ワインに敬意を払わない日頃の行い」に関しても、当人たちは預かり知らぬところで沢木さんだけが一方的にストレスを溜めていたようですし、本当にソムリエとしての仕事に誇りを持っていたんですね。
映画の序盤、蘭が「仁科さんの本で読んだ」とワインについての誤った知識を披露してしまい、やんわりと沢木さんに訂正されるという場面があるのですが、表面上は穏やかにしていても内心では腸が煮えくり返る思いだったことでしょう。
仁科さん本人は別に悪い人ではないのですが、今回のことでグルメエッセイストとしてこれからも活動していくことはできなくなったでしょうし、まさかのカナヅチ発覚も相まって正直この映画のゲストキャラクターの中では一番株を落としてしまった感が拭えないですね…。 (奈々さんのワイン当てで仁科さんの株を落としたことに関しては、沢木さん的には多少溜飲が下がる思いはあったかもしれませんが、それでもきっかけを作ったのがよりにもよって一番憎んでいるであろう奈々さんであったことから、やはりそれだけでは気が済まなかったんでしょうね…。)
ただし、旭さんに関しては、アクアクリスタルのレストランを任せてもらうという話が出ていたようですし、何度か打ち合わせで直接話したことがあるかもしれませんね。
そこで、ワインのずさんな管理方法を目の当たりにして、もしかしたら沢木さんは良かれと思って旭さんに正しい管理方法を伝えようとしたのかもしれません。
そして、旭さんはそんな沢木さんを邪見に扱った…のかもしれません。
単なる私の想像ですが、もし二人に直接的なやり取りがあったのであれば、そういったこともあったのかもしれないな、と思います。
ぎりぎりのところまでコナンを欺くことに成功していた
沢木さんの凄いところは、犯行の残虐性もさることながら、映画の終盤まであのコナンでさえも「犯人は村上」と思わせ、欺き通していたということでしょう。
村上と沢木さんの決定的な違いは「利き手」なのですが、コナンが犯人の利き手を知ることができたのは、奈々さん殺害に至るまでは博士を狙ってボウガンを構えた、あの一瞬の出来事のみ。
ぎりぎりのところでコナンは「あのとき犯人の利き腕は右だった」ということを思い出しますが、もし奈々さん殺害の際に、右利きであるという証拠を残さなければコナンは気が付かないままだったでしょう。
そして、たとえコナンが犯人の利き手のことに気が付いたとしても、コナンが置いたジュース缶を運悪く沢木さんが蹴ることがなければ、コナンが沢木さんを疑うことはなかったのではないでしょうか。
そう考えると、沢木さんはコナン史上かなり上位に入る手ごわい犯人と言っても過言ではないかもしれませんね。
(コナンも、沢木さんが犯人だと気づいて「この人が!?」と驚いていたところを見るに、コナン自身全く犯人だと思っていなかったんでしょう。当初の沢木さんの温厚そうな人柄を見る限り、無理はありません。)
ところで、そんな沢木さん、博士をボウガンで撃った後にコナンにスケボーで追いかけられたことがあるのですが、そういったことがあっても、「あの」クライマックスの場面で特にコナンを警戒したりはしなかったのでしょうか。
ひょっとしたら、もはやそんなことに頭が回らないほどあのときの沢木さんは正気を失っていた、ということなのかもしれませんね。
「豹変」後の声優さんの狂気じみた演技がとにかくすごい
劇場版名探偵コナン『14番目の標的』より
そんな沢木さんですが、声優さんはドラゴンボールのフリーザなどで有名な中尾隆聖さん。
当初は穏やかで物腰柔らかな語り口だったのが、眠りの小五郎…もとい、コナンに犯人であると名指しされ、動機まで当てられ、証拠を突き付けられ、もう言い逃れはできないと覚悟した沢木さんは自らの犯行動機について語り始めるのでした。
最初は落ち着いた口調で話していたのが、段々と感情が高ぶってくる沢木さん。
旭さんたちへのストレスの話になると、声が大きくなり、そして辻さんから受けたハラスメントの話に関してはとうとう激昂してしまいます。
そして、その後は少し平静さを取り戻し、復讐したい相手さえ殺せれば、あとの人間は死のうが生きようがどうでも良かった――そんな恐ろしいことを言い放つのです。
ここに至るまでの声優さんのお芝居が本当に素晴らしくて、ついつい聞き惚れてしまいますね。
最初は平静に話し始めたものの話しているうちに感情が段々と高ぶっていき、激昂し、また少し落ち着いて、今度は冷酷な声色で――と、非常に難しい演技だと思うのですが、見事に”沢木公平”というキャラクターを演じられていて、改めて声優さんってすごいな、と思わされた瞬間でした。
アクアクリスタルを再度爆破させ、蘭を人質に取ってからの狂気じみた演技も本当に鳥肌ですし、このキャラクターは中尾さんが演じたからこそ、ここまで印象に残る犯人となったのではないかと思っています。
実際、コナン映画で一番印象に残る犯人は誰かと聞いたら十人中八人ぐらいの方が沢木さんの名を挙げるのではないでしょうか。
本当に見事な演技でした。
『14番目の標的』 犯人視点で振り返ってみた感想まとめ
改めて振り返ってみても、終盤での声優さんの迫真の演技も相まって、コナン映画の中では本当に印象に残る犯人だと思います。
思えば、物語中盤、シャトー・ペトリュスの件で小五郎のおっちゃんに「つい我慢できなくなってしまって」と言う場面がありますが、あれは我慢できなくてつい飲んでしまった、ではなく溜まりに溜まったストレスに我慢できなくなって「つい」瓶を割ってしまった、というのが本心だったのではないでしょうか。
本来ソムリエが口にすることのない唐辛子の粉を舐めていた(そしてそこをコナンに目撃された)のも、奈々さんのワイン当てに成功したことから少し自信が出てきて、そろそろ味覚が戻ってきているのではないかと淡い期待を抱いて「つい」やってしまったのかもしれませんね。
こうして振り返ってみると本当に色々と考察の余地がある人物です。
上の方でも触れましたが、沢木さんと村上丈が毛利探偵事務所を訪れたとき、どちらかが小五郎のおっちゃんと出会えていたら大きく運命が変わっていたかもしれませんね。
というか、沢木さんに関しては、一人で抱え込まずにおっちゃんに相談してほしかったなというのが正直なところです。
作中におけるおっちゃんの沢木さんへの接し方を見るに、もし沢木さんから相談事を持ちかけられたら真剣に考えてくれたはずだと思うんです。
でも、誰にも相談することができなかったというのもまた、沢木さんなりのプライドからくるものだったんでしょうかね…。
やったことは決して許されないことですが、ほんの少し歯車が狂うことがなければ、自分の仕事に誇りを持ってまっとうに生きていたはずの人だっただけに残念だな、というのが正直な気持ちです。
ひょっとしたら、何年か後、小五郎のおっちゃんと英理さん、大人になった蘭と新一にワインを振る舞うという未来もあったかもしれません。
現実的に考えると極刑間違いなしですが、最後のおっちゃんから沢木さんへの一言を噛み締めて、自分の犯した罪の重さに苦しみながら刑に服してもらいたいですね。
『瞳の中の暗殺者』の感想記事でも少し触れさせていただきましたが、あの犯人と沢木さんは「天才的な才能を持っていたが、その才能を打ち砕かれたことに挫折し、自分を陥れた者へ復讐する」という点からして結構境遇が似ているんですよね。
最終的に毛利家の人に取り押さえられるという点まで似ています笑(沢木さんは小五郎のおっちゃんに、瞳の中の暗殺者の人は蘭に)
というか、初期のコナン映画の犯人は自分の仕事にプライドを持っている人が多く、そのプライドを打ち砕かれてしまったことがきっかけで凶行に走ってしまう、というパターンが多いように思います。
私はミステリー作品においては犯人のバックボーンも結構重要視しているので、このように(たとえ周囲からはなかなか理解されがたくとも)犯人なりのしっかりした動機がある作品はしっかり作り込んでいるな、と思いますね。
『コナン』に関して言えば、劇場版という媒体上あまりにもショボい動機ではいけない、けれども『コナン』の対象年齢を考えるとあまりにもドロドロした内容にするのもどうか…というところから、「職人」というところにスポットが当たったのかもしれないな、と考えています。
『瞳の中の暗殺者』、『14番目の標的』と、犯人に焦点を当てて感想記事を書いてみましたが、両者の犯人ともに犯行動機や犯行の経緯など色々と考察のしがいがあってなかなか考えさせられましたし、こう言っては何ですが書いていてとても楽しかったです。
そして『コナン』という作品自体も、今見てもやっぱり面白いものは面白いな、と改めて実感させられましたね。実は今、YouTubeの公式でコナンの昔のアニメをちらちらと視聴しておりまして、自分の中でちょっとしたコナンブームが再燃しているのかもしれません。笑
昔のアニメはツッコミどころが結構多いですが、それでも面白いものはいくつになって見ても面白いですよね。
それでは、以上でコナンの犯人視点の感想記事(14番目の標的)を締めくくりたいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
(※)劇場版名探偵コナン『瞳の中の暗殺者』の感想記事も書かせていただきました。
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