今月は『劇場版 名探偵コナン』の無料配信期間ということで、昔懐かしい初期の作品から順番に視聴していっている今日この頃です。
私自身は『コナン』の大ファンというわけではないのですが、小学生の頃はブームだったということで毎年の恒例行事のように映画館へ足を運んでいたものでした。
そんなわけで、今回は私がコナン映画で特に思い入れが強い作品の一つ、『瞳の中の暗殺者』についての感想と、今もなお多くのファンから支持されていることについての私なりの考察記事を書かせていただきたいと思います。
なお、今回の記事は『コナン』らしく前後編に分けたいと思います。
この記事ではトリックや犯人に関するネタバレはありませんのでご安心ください。
『瞳の中の暗殺者』あらすじ
劇場版名探偵コナン『瞳の中の暗殺者』より
事件に遭遇したコナンは、毛利と共に目暮警部や白鳥警部から事件の詳しい情報を聞き出そうとするが、彼らの口から出た言葉は「Need not to know」という警察の隠語だった。
そんな矢先、白鳥警部の妹・沙羅の結婚披露パーティに出席していた佐藤刑事が何者かに襲われ瀕死の重傷を負い、現場に居合わせた蘭もショックから記憶喪失になってしまう。
この作品の前作『世紀末の魔術師』の序盤は服部平次たちの住む大阪、中盤以降は歴史を感じさせられる古城が事件の舞台となっていましたが、今作は主人公・コナン達が暮らす米花町や新一と蘭の思い出の場所であるトロピカルランドと地元がメインのストーリーとなっています。
物語は、蘭が新一と一緒に行ったトロピカルランドの思い出を回想するシーンから始まります。
また一緒に行きたいねと電話口の新一/コナンに言うものの、今だ「コナン」の姿から元に戻れないコナン/新一としては複雑な気分です。
そんな中、白昼堂々と警察官が射殺されるという事件に偶然にも遭遇してしまったコナンと少年探偵団達。
目撃者として警察に呼ばれるコナンと少年探偵団でしたが、唯一の手掛かりは犯人が左利きだった、というものだけでした。
そして、さらにもう一人警察官が殺害されるという事件が発生。
おなじみの警察側メンバーである目暮警部に事件の詳細を聞こうとしますが、どこか警部の態度はよそよそしく、不安が募る一行。
そして、そんな中ついにレギュラーメンバーである佐藤刑事までもが撃たれ、その場に居合わせた蘭は精神的ショックを受けて記憶喪失になってしまう…というのがおおまかなあらすじです。
人気の理由その①:派手な舞台や設定を敢えて封印し、シンプルにまとめたストーリー
先にも述べたように、この作品の舞台は米花町とトロピカルランドと、おもいっきりコナン/新一たちの地元です。
また、近年の劇場版では毎年恒例となっている派手な爆発シーンや人間離れしたアクションもありません。
そういった要素を抑えて、敢えてシンプルにまとめ、主要キャラクター達の交友関係と内面をしっかり掘り下げたストーリーがこの作品の肝だと思います。
そうした作品は一歩間違えれば「映画館で観るには地味なのでは…」と思われがちなのですが、
”警察官が次々と襲われ、ついにレギュラーキャラである佐藤刑事まで被害に遭ってしまう”
”ヒロインである蘭が記憶喪失に陥ってしまう”
という緊迫感溢れる展開は劇場版ならではだと思いますし、「シンプル」ながらも「地味」ではないというちょうど良いバランスを保っていると思います。
そうなんです、本当にバランスが奇跡的に「良い」んですよね、この作品。
派手な舞台や設定なくとも、コナンや蘭たち主要キャラクターにしっかりと焦点を当て、推理要素もアクション要素もラブストーリーも「ちょうど良い」塩梅で盛り込んでいる。
この「バランスの良さ」で言えば、『瞳の中の暗殺者』は劇場版コナンシリーズ屈指の出来だと個人的には思っています。
人気の理由その②:警察の上層部の闇を描いた、緊迫感溢れる展開
『コナン』では毎度のことながらコナンや小五郎たちのサポートをしてくれる頼れる存在、目暮警部ですが、今作においては犯人は警察関係者の可能性があるということで、序盤はなかなか捜査情報を提供してくれません。
リアルタイムで映画館で観たときは、いつもは親切に接してくれる目暮警部らが何も語ってくれない、というシチュエーションに結構なショックを受けた覚えがありますね。
また、警察内部の少々ドロドロした展開も、今から思えばやや大人向きの展開だったように思います。警察上層部の者の息子に対しては手出しができない、とか。
こうした警察内部の闇が浮き彫りになる描写は、後述する蘭の記憶喪失と併せて、非常に緊迫感溢れるストーリーを生み出していますね。
とはいえ、今作のオリジナルキャラクター、小田切警事部長はとても良いキャラだったと思います。
容疑者の中に自分の息子が含まれていようと、忖度など一切させず断固とした態度を貫く公正さは警察の鑑と言えるでしょう。
今作で色々な闇が垣間見られた警察組織でしたが、彼の存在が最終的に警察にとって救いになっていたかと思われます。
人気の理由その③:蘭が記憶喪失になってしまうという衝撃的な展開
警察官が次々と襲われていくというのもなかなかショッキングな展開(映画館で観ていた当時、佐藤刑事が撃たれたときはかなりショックを受けた覚えがあります…いずれ助かるだろうと分かってはいましたが。笑)ですが、
なんといってもヒロイン・蘭の記憶喪失に関してはコナンたちにとっては青天の霹靂でしょう。
劇場版名探偵コナン『瞳の中の暗殺者』より
蘭の記憶喪失の理由は、自分のせいで佐藤刑事が撃たれてしまったのではないか…という精神的ショックから自分自身を守るためというものでした。
いつになく沈痛な表情で、自分のことも周りの人たちのことも何一つ分からない、そんな蘭の様子を見て、いかに『コナン』という作品でいつも明るい蘭の存在が大きかったか…というのが改めて実感させられましたね。
また、蘭が平常ではない&事件の目撃者であることから犯人に命を狙われている、ということで、蘭の周辺の人物たち――特に主人公のコナン/新一や、父親の小五郎、母親の英理さん、そして親友である園子と蘭との関係が改めて深く掘り下げられていたのも良かったと思います。
特に、園子に関してはいつも快活な彼女が蘭を思い、記憶がなくなっても一生友達だから…と涙を見せる一場面があり、このほんの少しの場面だけでも蘭と園子がどれだけ深い絆で結ばれた友達同士なのか、というのがよく分かる場面でした。
小五郎と英理さんに関しても、普段はお互いに意地を張り合ってしまうところがあり別居生活を続けているものの、蘭のピンチという状況に関しては夫婦で(喧嘩をしながらも)しっかり協力体制をとっていて、普段は離れて暮らしていてもやはり根底ではしっかりとした絆で結ばれた”家族”なんだな、というのが分かって良かったですね。
蘭を心配するコナンに対して、「いっそこのまま彼女が記憶を取り戻さない方がいいのでは」と語り掛ける灰原哀ちゃんに関しては、いくらなんでもその一言は言っちゃいけないよ…と思ったんですが、彼女自身の背負わされたものの大きさを思うとあまり強く責める気はなれませんでしたね。(そんな彼女のキャラクターをメインに据えたのが、次回作の『天国へのカウントダウン』というわけですね)
哀ちゃんは蘭に姉・宮野明美さんを重ねて見ているところがあるので、哀ちゃんなりに蘭のことを心配してはいたのだろうと思っています。
それにしても、「ただ知り合いの刑事が目の前で撃たれただけでそこまでショックを受けるだろうか」と考えるコナン君。普通はそれだけでも十分ショックだと思いますよ…汗
(小学一年生にして殺人現場に何度も遭遇しているにも関わらず平然としている少年探偵団のメンタルはどうなっているのだろうかとつくづく思います…)
人気の理由その④:新一と蘭の切ないラブストーリーをドラマチックに描いている
そして忘れてはいけない主人公のコナン。
自分がもし新一の姿で蘭の前に姿を現したら、蘭の記憶も戻るかもしれないのに…
そんな葛藤を秘めながらも、蘭を全力で守り、事件の真相を探っていくコナンの描写は劇場版屈指のシリアスな空気を醸し出していましたね。
そもそもこの作品の冒頭は、新一と蘭のトロピカルランドでの思い出を蘭が新一(の声で蘭と連絡を取っていたコナン)に語るというところから始まるので、この映画はまさに新一と蘭のためにある映画といってもよいでしょう。
トロピカルランドといえば、新一と蘭のデートの場所という思い出の地であると同時に、新一にとっては”コナン”になってしまった、という苦い思い出も残る場所。(もちろん蘭はそんなことはいざ知らずですが)
そんなトロピカルランドを本作の最終決戦の舞台としたのは、改めて新一と蘭との関係を掘り下げるためだった、ということなのでしょう。(終盤のコナンの服装が、蘭とトロピカルランドにデートに行ったときの新一の恰好とよく似ているというのも良い演出ですね)
そして、小松未歩さんが歌い上げる主題歌の『あなたがいるから』の歌詞、
姿を変えずに愛し合えたのに
…から始まるこの楽曲はまさに事件に巻き込まれ姿を変えさせられてしまったコナン/新一と、そんな新一をずっと待ち続けている蘭の心情そのものですね。
小松さんの透き通る歌声も切ない楽曲に合っていて、個人的にはコナンのアニメシリーズと劇場版を通してもかなり上位に入る良曲だと思っております。
ラストで今作のキーワードとも言える「need not to know」のセリフをコナンに言わせ、あえてコナンでも蘭でもなく小田切事部長をセンターに置いてエンディングに入るという演出もなかなか洒落ていましたね。(エンディングのクレジットでラストを犯人でなく彼で〆ているのも良いなぁ、と思います)
それにしても、トロピカルランドはよくよく事件に巻き込まれる遊園地ですね。
(殺人、闇取引、今回の事件etc…)
蘭の記憶を取り戻そうと、かつて蘭が新一と一緒に乗ったジェットコースターに乗る場面があるのですが、そのジェットコースターは人の首が吹っ飛んだという大変ショッキングな出来事があったところなのでかえって思い出さない方がいいのではないか…と内心突っ込んでしまったのはここだけの話です。汗
コナン/新一の告白&クライマックスで蘭が記憶を取り戻す演出が鳥肌…
劇場版名探偵コナン『瞳の中の暗殺者』より
これに関しては、本当に「実際に見ていただきたい」としか言いようがないですね。
トロピカルランドで執拗に蘭を狙う犯人から逃げるコナンと蘭。
命がけの逃亡の中、蘭はコナンに対して「どうしてあなたはこんなに私のことを守ってくれるの?」とふと尋ねます。
(実際、もう死ぬかもしれない状況だったのでおもいきって聞いておきたかったのでしょうね…)
そんな蘭に対するコナン/新一の返答は…これ以上の愛の告白はないのではないか、というぐらい「最高」のものでしたね。
ちょっとクサすぎるような気がしないでもないですが、『コナン』であれば全然許せます。笑
この映画は”コナン”の姿で蘭に違和感なく告白させるために、蘭を記憶喪失にしたのではないかとさえ思えてしまうほどの名シーンだと思います。(このときの蘭が”コナン”のことをよく知らない、自分のことを守ってくれる不思議な少年としか認識していない&コナン・蘭の絶体絶命のピンチ、という状況だからこそ、コナンもあそこまで言えたのでしょう。)
そして、映画のクライマックス、犯人にあと一歩のところで追い詰められた瞬間、蘭の瞳に映ったものとは…
…この瞬間、まさしく、この映画のタイトル『瞳の中の暗殺者』を現していたんですよね。
蘭の瞳に映し出された、蘭の目にしか見えない、暗殺者。
前作の『世紀末の魔術師』もそうでしたが、作品のタイトルがこうした形で作中で回収されるという展開は本当に鳥肌が立ちますね。
そして、コナン&記憶を取り戻した蘭による形勢逆転劇は、これまで二人が犯人から受けてきた精神的・肉体的ダメージを吹っ飛ばす、見事なカタルシスだったと思います。(コナンの服装が新一としてトロピカルランドに来ていたときの恰好に寄せてある、と上に述べましたが、この蘭の空手による犯人確保の流れは「社長令嬢誘拐事件」のオマージュかもしれませんね。どちらもコナンを犯人から庇う→正拳突き→跳び蹴り、という流れですし)
上にも述べましたが本当にアクション要素もラブストーリー要素もバランスの良い作品だな、と思いますね。
後になって振り返ってみると、映画の冒頭での蘭の「新一とまたトロピカルランドに遊びに行きたい」という願いは(蘭のあずかり知らぬところで)コナンとの犯人からの逃避行というかたちで実現した、とも取れますね。ずいぶんと命がけのデートではありましたが…笑
ちなみに、上記のコナン/新一から蘭への告白ですが、なんと小五郎が英理に贈ったプロポーズの言葉と全く同じだったという素晴らしい(?)オチまで用意されていましたね笑
(実際、身内に対する情の厚いところや、調子に乗りやすいところなど、推理力を除いては実は案外似た者同士の二人だと密かに思っています)
白鳥警部役・塩沢兼人さんの最後の出演作
また、これは余談になりますが…
本作は『コナン』のレギュラーキャラクターの一人、白鳥警部を演じておられた塩沢兼人さんの遺作となりました。
劇場版名探偵コナン『瞳の中の暗殺者』より
そして、今作の容疑者の一人として出演されていた井上和彦さんが後の白鳥警部の声を担当されることになるんですよね。
作中ではこの二人のちょっとした掛け合い場面もあり、ファンからすればなかなか感慨深いものがあるのではないでしょうか。
私がリアルタイムでこの映画を観たときはまだ幼かったため、声優さんが変わったということにあまりピンときていなかったのですが、後からコナンの初期の映画を見返しているとなるほど確かに変わっているな…と思わされたものです。
塩沢さんの白鳥警部、ミステリアスで独特な雰囲気を醸し出していてとっても素敵なお声だったんですね…。
これは惜しい方を亡くしてしまったな、とつくづく思われました。
とはいえ、今現在の白鳥警部のキャラクターも好きですけどね。テレビシリーズでは彼女もできて、初期のちょっと刺々しい雰囲気からすっかり丸くなった感じがします笑
『瞳の中の暗殺者』感想 まとめ
今回は新一と蘭のラブストーリーに焦点を絞ったシンプルな作品であるため、派手なアクションが見たい、または小五郎がかっこよく活躍するところが見たい、といった方(小五郎は蘭の父としてなかなかの奮闘ぶりを見せてはくれますが、やはりどうしてもコナンに活躍の場を奪われてしまっていましたね…まぁ、ストーリーの骨子が新一と蘭の物語なので致し方ないでしょう)にはやや物足りないかもしれません。
ただ、私としては派手なアクションや舞台なしでもここまで劇場版として鑑賞するにふさわしいスケールの作品を作れるのか、という感動から本作への評価はかなり高めです。
近年のコナンのアクション満載の映画も、確かにスクリーンで見ると大迫力でワクワクするんだろうな、とは思うのですが、派手なアクションのないシンプルな映画を「面白く」作り上げるって、大変難しいことだと思うんですよね。
その「難しい」ことを、ここまでのクオリティーをもってやりきった監督、制作陣には本当に脱帽です。
最後の最後に爆発などの映像面の派手さに頼ることなく、最初から最後までコナンと姿の見えない犯人との一対一の攻防でストーリーを展開させていくというのが良いんですよね。コナンが他人の声を借りずに、自ら姿を現して犯人の正体を暴くという展開も熱くて良いなと思いました。
劇場版コナンの中でも、何度も何度も見返したくなる、何度見てもハラハラドキドキさせられる傑作の一つと言っていいでしょう。
次回の後編では、劇場版コナンには欠かせない、ある意味もう一人の主役といっていい犯人と、そのトリックについての所感を述べたいと思います。
(※)後編記事もアップ致しました↓
(※)劇場版名探偵コナン『14番目の標的』の感想記事も投稿致しました。
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