フリーゲーム『鼓草』 感想 〜戦中戦後の日本を舞台に人々の生き様を描くADV〜

フリーゲームと読書感想
スポンサーリンク

今回は久しぶりにフリーゲームの感想記事を書かせていただきたいと思います。
(久しぶり過ぎてブログの書き方を忘れてしまいました…汗)
その名も『鼓草』。

ジャンルは女性向け恋愛ADV、作者様は式部様(公式サイト:http://hibi.kumogakure.com/)。
ダウンロードサイトはこちら→https://www.freem.ne.jp/win/game/24110(ふりーむ!)になります。
注意点として、男女の営みを示唆する描写があります。(15歳以上推薦とされています)

攻略対象キャラは二人、エンディングは3つに分岐します(あと二つ、クリア後の二週目ルートで隠しエンド的なエンディングも見ることができます)

以下、ゲームのあらすじと全体の感想、各エンディングとキャラクターについての感想記事を書かせていただきます。
ネタバレが含まれますので未プレイの方はご注意ください。

『鼓草』あらすじ

昭和十八年・夏。
岡山の町に私は嫁いだ。
祝言で初めて会ったその人は、優しくて、弟思いで、軍医を志願する人だった。

赤紙、空襲、その先の日々。
私と彼と、あの人の。
選べなかった、物語。

https://www.freem.ne.jp/win/game/24110

『鼓草』の作中の舞台となるのは昭和18年の岡山のとある町。
主人公の綿子さんは官立医大の医学生である絹本家の長男、尚太郎さんの元に嫁ぐことになります。

卒業後は軍医として戦地に赴くことがもう決まっている男性との婚姻。
親御さんが持ってきた急な結婚の話に、戸惑いながらも「親の決めたことには逆らえない」と静かに自分の運命を受け入れる綿子さん。
かくしていずれ出征することが決まっている夫、穏やかで人の好い義父母、気難しく不愛想でとっつきにくい印象の義弟といった絹本家の四人の中で生活することになったのでした。

最初は戸惑いながらも次第に夫の優しさ、誠実さに惹かれていく綿子さん。
ようやく夫婦らしくなってきたところで、遂に尚太郎さんにも赤紙が来てしまいます。

こうして不安に苛まれながらも夫の帰りを信じて待つ、綿子さんの日常が始まるのでした。…というところまでが物語の導入部分となります。
攻略対象キャラが出征のため序盤で早々に離脱するというなかなか乙女ゲームでは見ない展開です。

夫の不在の間、義父母にも気を遣うばかりでなかなか心休まる時間を持たずにいる綿子さん。そんな綿子さんを気遣い、励まし支えてくれたのは義理の弟の芳次郎さんでした。

第一印象は気難しく近寄りがたい印象があった芳次郎さんでしたが、出征していった夫を心配して待つ綿子さんに対して不器用ながらも気を遣ってくれる姿はプレイヤーとしても見ていて本当に心の支えになりました。

綿子さんにとっては大切な夫、芳次郎さんにとっては大切なお兄さん。
尚太郎さんの存在を通して少しずつ距離を縮めていく綿子さんと芳次郎さん。
それでも戦禍はますます激しくなり、大切な人の帰りを待つ人々のささやかな希望さえも飲み込んでいくのでした。

良かったと感じたところ

以下、ゲームをプレイしていて良いなぁと感じた点について書かせていただきたいと思います。

戦中戦後の時代背景についてしっかり調べられており描写が非常に細やか

作品の舞台となるのは昭和18年以降の日本ということで、太平洋戦争の真っ只中という時代になります。
男性は徴兵検査を受けたのち兵隊に取られ、女性と子供は銃後の生活を守り国民皆が一丸となってお国のために戦っていた、そんな時代でした。

幸いにも主人公の嫁いだ絹本家は医者の家ということもありかなり裕福な部類に入り、作中ではさほど食糧事情に困ることはありませんでしたが、それでも配給の食糧はどんどん悪くなり栄養不足でこの時代の子供の身長は平均より6センチも縮んだというデータもあったとか。
(欲しがりません勝つまでは…というスローガンがあったようですが今の時代から見るとなんとも空しい響きだと思います…。)
いかに食べたいときに食べたいものがすぐに手に入る今の時代が恵まれているかということを考えさせられますよね。

そんな作中の時代背景、市井に生きる人々の暮らしが本当にリアルに描かれていたと思います。
毎日の食事の描写、防火訓練、ご近所とのやり取り、婦人会の女性たちとの関係性など、まるで自分自身も本当にその時代を生きているかのような気分になるほど緻密に描かれているな、と思いました。
(ゲームクリア後のエンドロールに表示された膨大な参考文献の量を見て納得です)

また、一方で、そうした戦時中の歴史にあまり詳しくない人に向けてもかなり親切な設計となっており、主人公の綿子さんがごく普通に一般市民の女性なので、綿子さんの知識の範囲内で分からないことに関しては身近なキャラがちゃんと説明を入れたりしてくれるのもありがたかったですね。

昭和19年以降になると連合軍の本土爆撃が開始され、東京や大阪などといった都市部が狙われるようになるのですがそれでもまさかこんな岡山にまで空襲されることはないだろう、というのが世間一般の人々の考えでした。
しかし、それでも空襲はどんどん激しさを増していき、ついには岡山にまで…という展開になってゆきます。

意外に思ったのは広島原爆に対する一般市民の皆さんのリアクションが私たち現代人が思うよりもなんか薄いなぁ…と感じたことでした。
東京大空襲に関しては岡山から遠く離れた土地での出来事なので反応が薄くてもまぁこんなものか…と思ったのですが、お隣の広島であんな大変なことがあったのに「なんか新型爆弾が落とされて大変だったらしいよ」ぐらいのリアクションだったのだなぁと。
まぁ、当時はまだ情報が錯綜していて被害状況もちゃんと把握できていなかったり、そもそもテレビもネットもなかった当時と今とでは情報の伝達速度が全然違ったんだろうな、など色々と考えさせられました。
(そういえば『この世界の片隅に』でも主人公は広島の呉に住んでいるにも関わらず当初は何が起こったのか状況が全くわかっていない感じでしたね)

折しも去年の夏、個人的な旅行で広島は大久野島(野生のうさぎさんがたくさんいるので有名なところですね)に行く機会があり、戦時中に使われた毒ガス倉庫などを見学する機会があったため、そういった実体験も踏まえて戦争の時代に思いを馳せながらプレイすることができました。
(余談になりますが、うさぎさん達が島に住み着いたのは戦後に某中学校が飼育していたうさぎさんを放したのがきっかけであって戦時中にうさぎさんが毒ガス実験に使われていたとかそういうことではないようです。うさぎさん目当てで島の観光に訪れる際は可愛いうさぎさんと触れ合いつつ、過去にあった戦争のことにも思いを馳せていただきたいですね)

作品の雰囲気に合った立ち絵とBGM

ゲームにおいてシナリオの次ぐらいに大事になってくるのがキャラクターの絵柄だと思うのですが、作品の雰囲気に合った素朴な絵柄だな、というのが第一印象でした。(このゲームにあまりアニメチックな絵柄はあまり合わないかと思います)
一方でキャラクターが感情を露にする場面ではとても感情表現が強く描かれており、いくつか胸を打たれる場面もありました。

音楽に関してもピアノの旋律が優しくも切なく、作風に非常にマッチしていたと思います。
個人的には秋江さんの軽やかで明るいテーマ曲が印象に残りました。
少々重たい展開が続いていてもあのテーマ曲が流れた瞬間「あ、秋江さん…!」と心底救われる思いでした。笑

場面転換の際の演出が美しい

場面転換でフェードアウトしていく際にテキストが徐々に滲んでゆくという演出が余韻を感じられるというか、美しくて良いなーと思いました。
こうした細部の演出にまで拘っている作品すごく好きなんですよね。丁寧に作られているなぁ、と、いう印象を受けます。
たんぽぽの綿毛が飛んでいくイラストのカット演出には綿子さんの名前や彼女が辿っていく運命も踏まえて色々と考えさせられました。

各エンディングに関しての感想 ※ネタバレあり

『鼓草』は終盤まではほぼ一本道のADV(選択肢によって若干展開が変わるものの本筋の大きな変化はありません)ですが、物語終盤のとある選択肢によってエンディングが三つに分岐します。

ここからは終盤のルート分岐に至るまでの展開に加えてルート分岐後の各エンディングの感想と、各キャラクターについての感想を述べていきたいと思います。
重大なネタバレになりますので未プレイの方はご注意ください。





















********************




















ルート分岐に至るまでの展開

綿子さん達の願いもむなしく、昭和20年の春、尚太郎さんの戦死広報が届いてしまいます。

悲しみに暮れる絹本家の面々でしたが、さらに綿子さんにとって苦しい選択が訪れます。
夫を亡くした未亡人がそのまま家に留まり続けることは外聞が良くない。
そのため、義弟である芳次郎さんと再婚するように義父母から勧められるのです。
家庭の事情ゆえ実家に帰ることができない綿子さんとしては、断ることのできない選択でした。

そんなわけで少々強引な経緯で夫婦になった二人ですが、痛ましい空襲を耐え、終戦を迎え、終戦後の混乱の時代をともに懸命に生きていくにつれて少しずつ距離が縮まってゆき、夫婦らしくなっていきます。
芳次郎さんと色々なところに出かけたり、小説を読ませてもらったりして、好きなものがたくさんできた、と嬉しそうに語る綿子さんの表情が印象的でした。

ところが、終戦から一年後の冬のこと。
なんと戦死したと思われていた尚太郎さんが帰ってきてしまいます。

今の夫とかつての夫。
自分はどちらの妻でいたいのか。
綿子さんに迫られる選択はあまりにも重いものでした…。

芳次郎さんエンドについての感想

芳次郎さんとの婚姻関係をこのまま継続するという選択。
私は初見プレイ時はこの選択肢を選びました。
三年という長い月日(結婚する前も入れると)をかけて芳次郎さんと綿子さんが築いてきた関係性は深く強く、今更この関係性が変わることはないだろうと自分なりに考えて判断したことと、もう一つの理由としては、尚太郎さんに対して自分の中でいろんな感情があり、距離を置いた方が良いだろうと(非常に身勝手な理由であるということは承知しています)考えたためです。

このルートではとにかく芳次郎さんに対して貴方はお兄さんの代わりではない、綿子さんは貴方自身に惹かれたんだということを分かってほしかったのと、選べなかった人=尚太郎さんに対して自分なりに誠実に真剣に向き合おうということを念頭に置いてプレイしていました。
終盤、尚太郎さんと二人きりで話し合う場面では三年という月日が経ってお互いの立場も変わってしまったけど今でも貴方は自分にとって大切な人でそれだけは変わらない、今後もずっとそれは変わらないということをどうか分かってほしい、できることなら(私の勝手な押し付けであるということは承知の上で)どうか貴方自身の人生をこれからも生きていってほしい…という気持ちを込めてお話させていただきました。(もちろんあくまで自分はプレイヤーであり画面の外の人間なので伝わるはずもないのですが…)

また、お兄さんと綿子さんを気遣うあまり自分の本心を覆い隠し、綿子さんに対してきちんと向き合うことができていなかった芳次郎さんに対して私は貴方の妻です、とはっきりと述べた綿子さんの姿はずっとプレイヤーとして主人公の彼女を見守ってきた立場としても感慨深かったですね。

12年後の後日談では三人揃って再会することができて本当にホッとしました…。(実は三人が揃って再会できるのはこのエンドだけなんですよね)
子供たちに恵まれ幸せな生活を送っている芳次郎さんと綿子さんの姿は見ていて嬉しかったですし、長い時間をかけてようやく自分なりの幸せを見つけてくださった尚太郎さんに対して心からおめでとうございますという気持ちになりました。
それぞれがそれぞれの道を歩いていって、でもずっと離れ離れというわけではなく時折こうして交わることもあるのだろうなと、そんな人生の出会いと別れ、そして再会の喜びを感じさせられたエンディングでした。

尚太郎さんエンドについての感想

まさかの生還を果たしたかつての夫ともう一度婚姻関係をやり直そうという選択。
二番目に選んだのがこちらのルートでした。

このルートでは三年というブランクのある尚太郎さんとどう接していけば良いのかということに色々と試行錯誤しながらプレイしておりました。
二人で食事に行く場面でもどうしても嚙み合わなさ、ぎこちなさがありますし尚太郎さんがいない間に綿子さんが芳次郎さんといろんな場所へ出かけていろんな思い出を作っていっていた、というのはどうしても変えられない事実なんですよね。

なのでこちらとしてはもう三年間離れ離れになっていたという事実は変えることができないのだから、その分これから綿子さんと二人でたくさん思い出を作っていってほしいな、という気持ちを込めながらプレイさせていただきました。
綿子さんの妊娠に関してはこちらのルートではどうなるものかと思いましたが…本当に重い決断をしてくださった尚太郎さんにはただただ頭が下がるばかりです。

芳次郎さんに関しては、もちろんこちらとしてもちゃんと話したいという気持ちはありましたが、その前にちゃんとお兄さんと二人で話し合ってほしいな、という気持ちがありました。
芳次郎さんにとってはもちろん綿子さんも大切な人だけど、それ以前に本当にお兄さんの存在が大きいのだということはずっと接していてよく分かっていましたからね…。
夜中の帰宅の場面で芳次郎さんが感情を露にする場面は見ているこちらも胸が痛かったです…。
最終的に尚太郎さんからの、子供を自分の子として育てたい、という思いを受け入れて下さった芳次郎さんでしたが、「自分は兄さんに勝てなかった」という発言を見ると心の奥底では勝ちたいという気持ちも実はあったのかな?
分岐後のストーリーは本当に辛い展開が続きますが、考えようによってはずっと弟の一歩前を歩いていたお兄さんとその後ろを歩いていた弟さんが初めて真っ向から向き合うという展開でもあるのかな?とこのルートをプレイしていてふと思いました。

12年後の後日談では絵本の内容からして芳次郎さんは心から尚太郎さんと綿子さんの幸せを願っていてくれているのだな、とただただ芳次郎さんの思いやりと優しさに心を打たれました…。
綿子さんと芳次郎さんが直接再会することはできませんでしたが、どうか芳次郎さんにも幸せになってほしい、と心から願いました。

どちらも選べなかったエンドについての感想

尚太郎さんも芳次郎さんもどちらも選べない、となるとこのルートとなります。

このルートはただただ自分をひたすら責め続ける綿子さんが見ていて辛いルートでした。
確かに自分で決断することができず、尚太郎さんに対しても芳次郎さんに対してもあいまいな態度を取ってしまっている、そんな自分自身を嫌悪する綿子さんの気持ちも分からないでもありません。
けれども、元はといえばこのような事態になってしまったのは戦争という(芳次郎さんの言葉を借りると「狂っていた」)世の中のせいです。綿子さんにも、もちろん尚太郎さんにも芳次郎さんにも何の責任もありません。

私個人の考え方としては他人の問題は他人の問題で自分の問題は自分の問題、他人の感情に自分が責任を持つ必要はない、という考えを持っているので、二人を苦しめているのは私だ、私がいるせいで皆が苦しんでいるんだ…とひたすら自分を責め続けついには自らの命を絶とうとした綿子さんの姿は本当に見ていて苦しかったです。(かつての自分もそんな風に自分を責めてこれ以上生きていてはいけないと思って死のうとしたこともあったので、綿子さんに自分を重ねてしまって辛かった、という個人的な感情もありました)
自殺を思いとどまってくれたことに関しては本当にほっとしました…。プレイヤーとしては本当に何もすることができなかったので…。

綿子さんはずっと皆を苦しめているのは自分だと考えていましたが、そうやって苦しんでいたのは紛れもない綿子さん自身です。
なので、どうか自分の苦しみも悲しみも受け止めてあげてほしい。
自分の中の弱い自分も受け入れて、労わってあげてほしい。
他人の感情にまで責任を持つ必要はないということは自分自身の感情には責任を持つということになります。
自分が何に対して喜ぶのか、何に対して悲しむのか、何に対して怒りを感じるのか。
そういった自分自身の感情を、ひいては自分自身を大切にしてほしい
な、ともし自分が綿子さんの傍にいたら声をかけてあげたいな…と思いながら見守っていました。

そして、綿子さんが最後まで決断できなかった代わりに、各々で決断をしてくださった尚太郎さんと芳次郎さん。
二人の想いを受け止めて、生きていこうと心から深く思わされたエンディングでした。
それにしても芳次郎さん、あの去り方はカッコよすぎでしょう…。あんな去り方されたらかえって一生忘れられないですよ。悔しいったらありゃしない。笑
尚太郎さんも、本当にこちらとしては色々と心配していましたが、兄という立場としてどうこうだとか、憐れまれたくないだとか、そういった雑念はかなぐり捨ててご自身の気持ちにしっかり答を出されたのだなぁ…と思うと嬉しいというよりもほっとしましたね。

12年後の後日談はついに長男の修くんの立ち絵が出てきたことにまず驚き、そして後日談自体のボリュームの長さにも驚かされました。
自分の出生のことを知ったときは本当にショックでしたでしょうし、こんな重大なことをずっと隠していた両親への憤りもあったと思います。(まだ11歳ですからね…)
そんな修くんもおもいきって実の父親に会いに行き、芳次郎さんからいろんな話を聞いて、彼なりに得られるものはあったのではないでしょうか。
確かに出生までのいきさつは少々複雑ではありますが、芳次郎さんと綿子さん、そして育ての父親の尚太郎さんと三人の親御さんたちから愛されて貴方は生まれてきて、これからも皆から愛されて生きていくんだよ、とプレイヤーとしては伝えてあげたいな、と思いましたね。
そして芳次郎さんは最後の最後まで綿子さんが好きになった芳次郎さんのままだったな、という印象でした。
芳次郎さんがこれから再婚をしたりするのか、どう生きていくのかは分かりませんが、芳次郎さんにとって幸せと思えるような、納得のいく人生を送ってほしいな、と心から願いました。

余談になりますが、後日談であの人が出てきてくれたことは嬉しいサプライズでした。

二週目のIFルート・エンディングについての感想

実は芳次郎さんエンド・尚太郎さんエンドをそれぞれクリアすると二週目プレイ時に一週目になかった選択肢が出現し、また違った展開を見ていくことができます。

芳次郎さんエンドを見た後にプレイした方の結末に関しては、尚太郎さんの生存フラグ(磁石)を折ってしまったことにより尚太郎さんが生還することなく、芳次郎さんと綿子さんの二人でこのまま生きていくというエンディングでした。
選択肢が出てきたときからその後の展開がすぐに予想できてしまって、これ絶対選びたくない…というのが率直な感想でした。苦笑
自ら選んだ選択肢によって死なせてしまった(しかも恐らくそうなるであろうと分かっていた上で生存の可能性を自ら握りつぶした)ということになりますからね。
エンディング回収のためとはいえ本当に選ぶのがきつい選択肢でした。
(というかその選択肢を選んだことでキャラクターがどのような運命を辿るかをプレイヤーとして分かっている上でそれでもエンディングを回収するためには仕方ないから選ぶしかないか、ってよくよく考えてみたらなんだかなーという気もしますね…某誰も死ななくていいやさしいRPGのとあるキャラクターの「本当はこんなことしたくないけど、結末を知らなきゃいけないから殺すだけだと自分に言い聞かせていた」といった旨のセリフを思い出してしまいました。)
余談になりますが、男性が女性にかんざしを贈るのにはあなたを守りたい、一生添い遂げたいという意味があるそうです。

尚太郎さんの方の結末に関しては、それまで自分で自分の生き方を選ぶことができず周りに委ねて生きていくことしかできなかった綿子さんがしっかりと自分の願いを主張し、あくまで自分の心は尚太郎さんのものとした上で絹本家でこのまま生きていきたいという意思を貫き通した姿が見ていて本当に感慨深かったです…。
そんな綿子さんの願いをしっかり受け止めてくださった義理のお父様も、了承してくださった義理のお母様にも本当に感謝しかありません。
そのまま芳次郎さんと再婚することはなく月日が経ち、戦地から戻ってきた尚太郎さんと無事に再会。
三角関係で修羅場の展開になどなることのない、まことに平和な結末でした。
しかし一方でこのルートの芳次郎さんは自分の抱える想いを誰にも明かすことなく墓場まで持っていくんだろうな、と思うと少々切ない気持ちもありますね。
皆が本当の意味で幸せになれるハッピーエンドというのはなかなかないんだよな…と思わされるエンディングでした。
ちなみに、このルート、初見プレイ時に自分だったら率直に自分の意志を伝えるのになと思っていた展開そのまんまでしたのでもし自分が綿子さんの立場ならこうなるんだろうな、とも思いました。

各キャラクターについての感想 ※ネタバレあり

それでは、主要キャラ三人と周辺人物たちについての感想を書かせていただきたいと思います。
最初は主人公の綿子さんと攻略対象の二人、義理の両親と秋江さんについてだけ触れようかなと思っていたのですが、その他の立ち絵のない脇役の人たちも出番は少ないながらも一人一人が本当に印象に残っていて、各々その後の人生も想像したくなるぐらいキャラ造形がしっかりしているな、と感じられたので思い出す限りのキャラクターについて書かせていただきたいと思います。

綿子さん

この物語の主人公なのですが、自分から人と関わったり行動を起こしたりというタイプではなく、何事においてもひたすら受け身の女性。
育った境遇ももちろん大きいのでしょうが、それ以前に女性が自立して生きていくということが現代よりもはるかに難しかった時代、結婚して子供を産むということが女性としての生き方のステレオタイプとされていた時代においては彼女のような人は多かったのかな、と思いました。
現代の視点から見るとこういったタイプの人は自他境界があいまいで家庭を出たとしてもたとえば職場で理不尽な扱いを受けたり、友人や恋人から都合の良いように利用されたりと人間関係でしんどい思いをするといったことがしばしばあるのですが綿子さんの場合は嫁ぎ先にも友人にも恵まれていて本当に良かったね…と思いました。

そんな彼女も絹本家の人々と触れ合い自分にとって「大切なもの」ができていって、少しずつ心の変化が見えていったのはプレイヤーとして感慨深かったですね。途中、友人である秋江さんに対して意見をする場面があるように、受け身の姿勢ではありつつも決して「気の弱い」女性ではないんだろうな、とも思います。(あの場面は選択肢が出てプレイヤーが選んだわけではなく綿子さんが自発的に発言したので見ていておおっと思いました)

閉鎖的な家庭環境で育ってきた綿子さんが芳次郎さんと過ごすうちにいろんな世界に触れることになり、好きなもの、大切なものがたくさんできていった…という過程は、それまで何一つ自分の好きなものが分からなかった彼女を見てプレイヤーとして心配していただけにとても感慨深かったです。
自分の中で好きなもの、苦手なもの、といった自分の軸を作っておくことは、生きていく上で、他人と関わっていくにあたって、とても大切なことだと思いますので。

三択のどのルートでも苦悩することにはなりますが、苦悩を乗り越えて自分の人生を受け入れて生きていく決断をした彼女をプレイヤーとして応援したいなと心から思いました。

尚太郎さん

綿子さんの夫。一言で言うととにかく善い人を絵に描いたような人。
プレイヤーとしても序盤はゲームの世界に入ったばかりで、全く知らない土地にいきなり嫁がされた綿子さんと同じく右も左もわからない、といった状況でしたので何かと気を遣ってくれることに対して本当にありがたかったです。
ただ、出征後、芳次郎さんの口から語られる立派なお兄さん像を聞くにつれて(こんなにも周囲の誰からも善い人と思われてる人ってなんか大変そうだな…)と内心思ったりもしたり。周囲から思われてる自分と自分自身が思う自分が100%一致していることってありえないですしね。

帰還後はまず驚きはしたものの生きていてくれたんだと思うと素直に喜びの気持ちが芽生え(その際の選択肢でも迷わず抱きつく方を選んでいました)、それからあまりにも変わり果てた姿に色々と思うところがありました。
物語の主人公は綿子さんであくまでプレイヤーは黒子のような存在ではありますが、私はプレイしていてもし自分が同じ立場だったらどう接するだろうかと考えました。
そして悩んだ末に私が考えたのはあくまで普通に接することにしよう、ということでした。
尚太郎さんが戦地で一体どんな目に遭ったのか何を見てきたのか、作中では断片的にしか語られませんが精神的にも肉体的にも相当深い傷を負って帰ってきたんだろうな、ということは分かります。
その上で愛していた妻が自分のいない間に弟と再婚していたなんて、とても受け入れがたいことだったでしょう。
けど、それらはあくまで私の想像であり、本人の抱えている苦しみは本人にしか分かりません。
それに、あまりこちらが色々と心配したり気を遣いすぎるとかえってご本人にとって負担になるのではないかと。
ましてや、本来は明るく闊達で人望に厚く周囲から慕われていたような人が、こういった状況下で必要以上に周囲に気を遣われる、気を遣わせてしまうといった状況は「こんなはずではなかったのに…」という以前の自分自身とのギャップで非常に苦しい思いをするのではないかと。
そう自分なりに色々と考えて、プレイヤーとしてはごく普通に接するようにしていました。
全く気を遣わないわけではないけど気を遣いすぎるということはないように、ただ戦争のことを思い出させるような話題だけ避けようと考えていましたね。

基本的に一歩離れたところで接し、何を言われてもどういう状況になっても動じない精神で接していたのですが、唯一感情的になってしまったというか心底怒りを覚えたのは選べなかったルートのショールの下りです。
自分が大切にしていたものを贈り主本人に燃やされた、越えてほしくない一線を越えられた、という怒りも勿論ありましたがそれ以上にまるで「どうせ自分は死んだはずの人間なんだから、自分なんてもう要らない人間なんだろう」と言われたような気がしてショックでしたし、悲しかったです。
今から思えば自分でもちょっと引くぐらい感情を剥きだしにしてしまっていたなー…と思いますね。(多分リアルに自分が同じことされたら激高していたと思う)
それだけ恐らく自分にとっては絶対許容できないことだったということでしょうか。
後に一応ちゃんと謝ってくれましたが、「あれは尚太郎さんがくださったものですから(気にしないでください)」と返した綿子さんに対しては、いや、貰った時点で自分のものだからね?と内心突っ込みを入れたくなりました。謝罪はちゃんと受け入れましょう。その上で、許すか許さないか考えましょう。それが本当の意味での相手への誠意だと思います。

選べなかったルートでは先にも述べた通り、年月が経ってお互いの関係性は変わってしまったけどそれでも自分(プレイヤー)にとって貴方は大切な人であることに変わりはない、貴方自身の人生を生きていってほしい…という気持ちを込めてプレイさせていただきました。まことに身勝手な自分の願望の押し付けではありましたが。
生きて帰ってきてくれたことへの嬉しさ、その一方で自ら関係性を断ち切る覚悟をしたことへの後ろめたさなど色々と複雑な感情はありましたが、最後は落ち着いた気持ちで送り出せて良かったな、と思っています。
残りの二つのルートでは最終的に綿子さんと一緒になることになりますが、綿子さんのお腹の中の赤ちゃんも含めて、芳次郎さんを想う綿子さんの分まで含めて綿子さんを大切にしたい、という決断には本当に頭が下がりましたし、綿子さんにもその想いを受け止めて尚太郎さんの傍で生きていってほしいな、と思いました。

芳次郎さん

尚太郎さんの弟さんで綿子さんの義弟。だったはずが中盤で尚太郎さんの戦死の報せが来たため、綿子さんの夫ともなる。
珍しい紺色の国民服、読書好き、甘党、気管支が弱いなど作中で一番設定の多いキャラクターなのではないでしょうか。

序盤はつっけんどんな態度で綿子さんも怖がっていましたがプレイヤーとしてはこの子絶対ツンデレだ、仲良くなったらデレるタイプだと確信していたので、早く仲良くなりたいなぁと思いながらプレイしておりました。笑
案の定デレてはくれましたが、思いのほか割と早い段階から綿子さんに気遣う姿勢を見せてくれましたね。
また、綿子さんが何かに悩んでいたりするといつも察して声をかけてくれるところやお兄さんを心から慕っている様子、絹本家の中での立ち回りなど見ていて本当に周囲の空気をよく読んでいて、自分がどう立ち回るべきかよく考えている人なんだな、と思いました。(こういう風に周りの空気を読んでうまく立ち回ろうとするってきょうだいの下の子あるあるかも)

夫が戦地に行ってしまい不安を抱えながら毎日を過ごす綿子さんを何度も支えてくれたことはとても心強く思っていたものの、途中から「兄嫁」としてでなく「女性」として意識されているのでは…?と薄々感じるようになってきて、再婚のくだりでああやはり、となりましたね。
ただ、再婚のくだりまでは、自分としてはその気持ちには応えられないし応えてはいけない、と思ってあくまで家族の一員、義理の弟として接していました。(気づいていないフリを通していたのが良かったのか悪かったのかは私には分かりません)

夫婦関係となってからはぎこちないながらもお互い距離を詰めていって、綿子さんを映画や音楽会などに積極的に誘うようになってくれた芳次郎さんと、いろんな世界に触れていって自分の好きなものがどんどん増えていき心なしか立ち絵の表情も豊かになっていった綿子さんの二人をプレイヤーとして微笑ましく思いながら見ていました。お互いの好きなものを共有できるって幸せなことですよね。
それでも時折、自分は兄さんの代わりだから…と思いを吐露する描写があり、その度に貴方は決してお兄さんの代わりではないんだよと言ってあげたかったです。
おそらくご本人も心の奥底では分かっているとは思いますが、人は誰の代わりにもなれません。
お兄さんはお兄さんで、芳次郎さんは芳次郎さんです。
芳次郎さんがお兄さんのことを心から尊敬しているのは本当に素晴らしいことなのですが、一方で自分自身のことを兄さんにはかなわない、と過小評価している傾向があるんじゃないかと思う節があり、そこはちゃんと自分のことを認めてあげてほしいなぁと思いましたね。
医専出だということも気にされていましたが、そんな肩書なんかより、周りからどう見られるのかより、自分がどういう人間でありたいかが大切です。
そして最終的には自分の身近な人、大切な人にさえ分かってもらえたらそれでいいんじゃないか、と私は思っています。(なんか説教臭くなってしまったかな)

ルート分岐後の結末は大抵が芳次郎さんが身を引くという結末で、お兄さんのことも綿子さんのこともどちらも大切に思っている芳次郎さんらしいなと思うと同時に、自分(正確には綿子さんですが)はいつも守ってもらってばかりでこの人に何も返せないなぁ…と切なくも悔しい気持ちにもなったり。
幸せの形は人それぞれですし芳次郎さんが今後他の女性と一緒になるのか、それともずっと独り身を貫くのかは分かりませんが、どうかご自分の納得のいく人生を歩んでほしいなと願うばかりでした。

秋江さん

いわゆる朝ドラにおける「主人公の親友」ポジションの人。こういうポジションの人は主人公と対照的なキャラなのがお約束で、秋江さんに関しても口達者で行動的でと控えめな綿子さんとは本当に対照的に描かれています。
が、芳次郎さんルートのとある場面で、女性として生まれたこと故の生きづらさを吐露する秋江さんを見ていて、綿子さんと状況や立場は違えど、秋江さんもまたいろいろな苦労を抱えた人なんだなということが垣間見えましたね。

芳次郎さんとは犬猿の仲ですが、秋江さんも芳次郎さんと同じく綿子さんのことをとても気遣ってくれているので傍から見ていたら案外良いコンビになれるんじゃないかと思ったり。本人達は嫌がりそうですが。笑

気の強い性格ではあるけど中盤のとある場面で綿子さんと少々言い合いになったとき、貴女と喧嘩したくはないから…とすっと身を引いてくれたりと柔軟な一面もある女性だなとも思います。(案外綿子さんはこういうときなかなか自分から身を引かなさそうな気がする)
選べなかったルートではその後も綿子さんと家族ぐるみの交流が続いているとか。
綿子さんの親友として、秋江さんにも幸せになってもらいたいなと心から思います。

治雄さん(義理のお父様)

尚太郎さんと芳次郎さんのお父様。
綿子さんと直接会話する描写は少ないながらも、さすがにお医者様という役職上、緊急の際には一番に出てきて冷静かつ迅速に判断を下す描写が印象的でした。(時折、それ笑うところなのか…?と突っ込みたくなるような唐突な発言もありリアクションに困ることもありましたが…
特に岡山空襲の際、芳次郎さんの安否を気にするあまりパニックになってしまっているお義母様を叱りつけ医者としての役割を全うしようとする姿にはプロ意識を感じられましたね。
一方でその後芳次郎さんの安否が分かったとき、緊張の糸が切れたのか誰よりも号泣したのがお義父さまだったというのも父親としての愛情を感じられて良かったです。

後日談ではお身体を悪くされてしまったようですが、奥様をしっかり支えて長生きしていってほしいなと思いました。

みどりさん(義理のお母様)

綿子さんにとっては義理の母ですが、いち女性として見ていて良いとこのお嬢さん育ちなんだろうなぁ、というのが第一印象でした。(実際、もともとは料亭の娘さんだったそうですね)
見るからにおっとりしていそうなのに意外と遠慮なくはっきり物事を言う(縁談の件でごたごたがあった秋江さんに対してあからさまにきつい態度を取ったり綿子さんへの印象を愛嬌がないと言ってのけたり…苦笑)ところがあるんだなとか、そういう面も含めて可愛らしい人だな、と思います。
医者の妻というだけあって顔が広く、婦人会の奥様方と交流があったりとご近所付き合いも良好そうでしたね。真のお金持ちはお金持ちだということを鼻にかけたりしないんだな、というのがよく分かります。

この時代の考え的にどうしても綿子さんに対しては子供への期待が大きく、それが綿子さんにとってしばしばプレッシャーになってしまうこともありましたが、それでもなかなか子供のできない嫁にいじわるをするような姑もいることを思えば本当によくしてくださるお義母様だったと思います。
選べなかったルートの後日談では芳次郎さんがいなくなってしまった寂しさに心を囚われてしまってしばしば昔に戻ってしまうこともあるようですが、可愛い孫たちに囲まれてその寂しさも紛らさせていったら良いな、と思います。

余談ですが、ゲームの立ち絵では上半身しか見えないので、公式サイトのキャラクター紹介で全身を見てこんな服装だったんだ、と驚きました。服飾関係にはあまり詳しくないのですが、おしゃれで素敵だなぁと思いましたね。

一ノ瀬さん、二関さん、三村さん(婦人会の方々)
…朝ドラに出てくる婦人会って、高圧的で嫌味なおばちゃん連中というイメージがどうもありますが、戦地に直接行って戦うことができない女性は女性なりに銃後の生活を守ろうと戦っていたんだろうな、と思いますね。
三名ともそれぞれ立場は状況は違えど、戦争という時代に翻弄され、辛酸を嘗めさせられることになってしまいました。
皆さんその後どうなったのか非常に気になりますが(この辺は副読本に書かれているのかな?)、いずれにしても婦人会の三人の話は戦争で割りを食うのは罪もない民間人たち、特に女性や子供たちだよなぁと改めて思わされるエピソードでした。

ご近所の奥様方
…詳しい事情を知りもしないよそ様の家庭の噂話や陰口で盛り上がる、という心情が自分には全く理解できないのですが、そういえば中学の女子グループでこんな光景あったなぁと思い出しました。
グループ内で一人の子の陰口を叩いてクラスから孤立させて、と。(そしてなぜか私のいたグループは陰口を叩かれて追い出された子を受け入れて一緒にお弁当食べたりと何かとそういった子達の受け皿的になっているグループでした。)
で、こういう陰口で盛り上がるグループというのは常に人の粗探しをしているものですから、普段陰口を言う側だった中心的な人がある日ふとしたことからグループ内の別の人から陰口を言われグループを追い出されるというパターンもあり得るんですよね。
噂話で盛り上がるのは別に好きにすれば良いとは思いますが、人に向けて言った言葉はいつか自分に返ってくるかもしれない、ということはしっかり肝に銘じておいてほしいな、と思いますね。

予科練帰りの男性
…出番は少ないですがこの方もその後どうなったのかがとても気になっていたので、選べなかったルートの後日談にて無事に就職して元気に働いている様子を見て心底ホッとしました。
あれで家族と再会できていなかったらどうしよう…とも心配していたので、無事再会できていたようで何よりです。年齢を考えると奥様や子供もいたりするのかな。
戦争で失ったものは本当に大きいでしょうし失った時間を取り戻すことはできません。
時間を巻き戻すということはどうあがいても人間にはできないことですから。

でも、これからの未来をどう作っていくかは自分次第です。
綿子さんの気遣いもあったとはいえ、懸命に努力して立ち直り自らの人生を切り開いていったこの方の人生をこれからも応援したいな、と思いました。





















********************




















まとめ

『鼓草』は戦中戦後の時代と、その時代に翻弄されながらも精一杯生きる人たちを真正面から描いた素晴らしい作品でした。
時代背景や世界観、人物描写がしっかりしているということは作品に厚みがあるということであり、作品に厚みがあるということは優れた作品だということだと思います。
私自身も綿子さんを始め尚太郎さんや芳次郎さんたちと接していて、皆と一緒に悩んだり苦しんだり本気で心配したり時には怒りを覚えたりと本当に心を動かされながらのプレイでした。
攻略キャラ(尚太郎さんと芳次郎さん)のどっちが好きなの?と聞かれるとどちらも大切な人たちです。
恋愛的にはどちらの方が好みなのかと聞かれると…実は自分でもよく分かっていません。苦笑
特に終盤は乙女ゲーということをすっかり失念している状態でとにかく一人ひとりと真剣に向き合おうと必死でプレイしていたので。
つくづく自分は目の前のことで頭がいっぱいになって他のことを考えられない、不器用な人間なんだなぁと思いました。
(普段は理性で抑えてはいますが、思い込んだら一直線でめちゃくちゃ猪突猛進タイプの人間だと思っています。なので理性的な面と情の深さを併せ持っている治雄さんのような人を見るとこんな大人になりたいなぁ、と憧れます…。)

一応気になった点も書かせていただきますと、途中やや現代風じゃないか?と思われるようなセリフがあったのが気になりました。
それとなにぶん漢字に弱い(&語彙力が低い)ものなので難読漢字には振り仮名を振ってほしかったなぁというのが正直なところです…。(腸蠕動/ちょうぜんどう、ってこのゲームで初めて知りました。主人公の嫁ぎ先がお医者様ということで医療関係の専門用語が結構チラホラ出てくるんですよね)
また、スチルに関しては振り返ってみたら計四枚のうち三枚が芳次郎さんで尚太郎さんは一枚だけという…まぁ尚太郎さんに関しては序盤で離脱してしまうので致し方なかったかもしれませんが。序盤の百貨店に買い物に行く場面などでスチルがあっても良かったかな、と思いました。

それにしてもこの戦中戦後を描いた作品をインターネットという現代の利器でダウンロードしてゲームとしてプレイできるってなんだか不思議な感覚だなぁという気もしましたね。
今はスマホで自分の得たい情報をなんでも得られて、漫画にしろゲームにしろ音楽にしろとにかく娯楽で溢れている時代ですがあの時代は娯楽らしい娯楽なんて本当に限られていたんだろうなぁと。
一方で今の時代は今の時代で見たくない情報も目に入ってしまったり、ネット上のトラブルに巻き込まれたりといった情報化社会の弊害もあったりで、果たして何が本当に幸せなのか、生きていく上で本当に大切なのは何なのか?と思うと色々と考えさせられますね。

本当に素晴らしい作品でした。
もちろん作品の時代背景上、辛い出来事が続きますし終盤はかなり重たい展開になっていくので万人に勧められる作品ではないかもしれませんが、この時代に興味関心のある方や厚みのある物語をしっかりと味わいたいという方にはぜひお勧めしたいです。

作中の年表や用語集、キャラクター設定などの書かれた副読本も配布されているようですので、また後日購入させていただき、拝読したいと思います。

鼓草 副読本【PDFダウンロード版】 - 日々雲隠れ - BOOTH
乙女フリーゲーム【鼓草】の設定などを収録した副読本です。 ◎こちらは【PDFダウンロード版】です。紙版と内容は同一のものです。 ◎一部イラストページに本文ページとサイズが少々異なるものがあります ゲームダウンロード: 〇登場人物設定・解説(10頁) 〇なんとなく歴史がわかる鼓草年表(作中の出来事・岡山県内・日本国内外の...


(※追記)同じ作者様の作品『フサの大正女中ぐらし』の感想記事も書かせていただきました。
こちらは大正時代の物語であり、『鼓草』との繋がりを感じさせられる描写もちらほらと出てきますので、『鼓草』をプレイして気になられる方はこちらの作品もプレイしてみていただければと思います。
(もちろん、『フサ~』から先にプレイしても特に支障はありません)

コメント